高橋 経
洋の東西を問わず、冗談(ジョーク)はユーモアがあれば、人々を笑わせ楽しくさせる。たとえ皮肉たっぷりなジョークでも目に廉(かど)を立てるのは大人気ないと許される。だが、他人の心身いずれかを傷つけるジョークは有害そのものだ。
私が中学生になって初めて習った英語の教科書に『プラクティカル・ジョーク(practical joke)』と題した一章があった。日本語に当てはまる言葉は未だに思い当たらないが『実害のある冗談』、『笑って済まされない冗談』といった意味だと理解している。その章では、ある中学生が主人公で、人並みの容貌だが鏡を見る度に『耳が大き過ぎる』のを引け目に感じている。東洋では、大きい耳は『福耳』と言って賢者、長寿の象徴として尊重されているから、大きい耳を恥じるのは異常だと思った。しかしその話では本人が勝手に恥じているのだから何とも致し方がないが、クラスメートの一人にそれをからかい半分に指摘されて落ち込む、という話だった。要するに、他人の弱点を嘲弄するのが『プラクティカル・ジョーク』で良くないことだ、と教えられた。

大分昔になるが、ある若い女性の許に出張中の愛する許嫁(いいなずけ)が突然死んだという通知が届いた。4月1日だった。余りのショックにその女性は自殺してしまった。自分で自分の死亡通知を送った許嫁の男性は「エイプリル・フールだったのに」と愕然とし『悪い冗談』だったと後悔したが、後の祭りだった。

メールと言えば、見知らぬ差出人からのメールは要注意だ。知っている個人か団体からのメールでも鵜呑みにすると酷い目に会う。例えば、自分の口座がある銀行からのメールを受け取り、企業マークやロゴが付いているから信頼して読み始める。「貴方の口座の明細が何者かに盗まれている形跡があるから、確認したいので次の空欄に答えてください」とある。やれやれと思って書式を書き込み始める。姓名、住所はよいとして銀行のファイルにだけ記録してある筈の『社会福祉番号』の欄を書き込む段になり、直感的に怪しい気配を感じ、銀行に電話を掛けて事の次第を問い合わせる。「そのようなメールは送っていない」との返事。冗談ではない。
日本で『振り込め詐欺』という犯罪が盛んに稼いでいるようだが冗談ではない。『冗談』と『詐欺』は発想が似ているが、根本的に目的が異なるのは言うまでもない。



『演出』といえば、テレビ番組の実況報道のプロデューサーが、視聴率を高めるために『演出』があったとして騒がれていたが、業界では『やらせ』と言って常習になっているようだ。これは冗談ではなく、担当プロデューサーの死活問題に関わっていたのかも知れない。
冗談から脱線してしまったが、最後に手の込んだ『プラクティカル・ジョーク』を一つ。

「時の大統領ニクソン(Richard Nixon)が、宇宙開発でソ連に遅れをとったので、アメリカの国威を回復させるために、是が非でも『月面着陸』を実現させたかった。たまたま閣僚の一人が宇宙映画で名を挙げたスタンリー・キュブリック(Stanley Kubrick:1928年〜1999年)を知っていたので彼を起用し、映画の特殊技術で『月面着陸を実現』させるべく極秘の計画が立てられた。その間の経緯を先の国防長官ラムスフェルド(Donald Ramsfeld)や、キッシンジャー(Henry Kissinger)国務長官にインタビューして確認した」
という内容で、それがメールで送られ、YouTubeという映像公開では人気トップのサイトに繋がっていた。一通り鑑賞したが、盗聴事件で悪評を得たニクソン大統領ならやり兼ねないと思わせる節もあり『やらせの月面着陸』を信じた人が5万人近くいたようだ。しかしラムスフェルドやキッシンジャーのような政府の要人が『国家的な大秘密』を洩らすとは思われず(二人の談話が日本語に吹き替えられていたのも怪しい)、NASA全員とか大勢の関係者の口を一斉に塞いで秘密を守らせる事は先ず不可能なことだ。このような辻褄の合わない部分も多く『やらせ』説を鵜呑みにするわけにいかなかった。どうやら『やらせ』説はプラクティカル・ジョークだったらしい。
これは可成り悪質のジョークだ。この『やらせ』説の製作者がアメリカの威信を傷付ける意図があったとしたら、5万人近くの人々を唖然とさせ、五つ星の評価を獲得したことで間違いなく傷付けてしまったことを否むことはできない。
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時間の無駄とは思うが、若し上記『やらせ』説のビデオをご覧になりたかったら、左の赤い部分をクリック。
1 件のコメント:
人を信じられない、なんて住みにくい世の中だと思います。でも賢明に真偽を判断すれば、この世の中もまんざらではありません。
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