2008年12月22日月曜日

黒人大統領の出現

志知 均 12月11日


アフロ・アメリカン(黒人)のバラク・オバマが 44代目の大統領に当選したのは驚きですが、当然ともいえます。ブッシュ大統領(共和党)への強い反感(特に40歳以下の世代)と金融危機が最後まで未決定の有権者をオバマ支持に向かわせたといわれていますが、この〈政治の大変動〉にはもっと深いところに原因があるように思われます。キング師が "I Have A Dream" と叫んでから40年で黒人大統領が出現したのはアメリカ社会の柔軟性の結果だとも言えますが明らかに白人中心の社会の変動を反映しています。

ヨーロッパ諸国やイギリスの植民地支配は白人男性により確立されました。アメリカ独立後もこの支配は続きましたが、世界中に広がったイギリス植民地は第一次世界大戦ではドイツに挑戦され、第二次世界大戦ではドイツと日本に挑戦されて崩壊しました。ヨーロッパ諸国もほとんど植民地を失いました。大英帝国崩壊の危機感からチャーチルに泣きつかれて第二次世界大戦に参戦したアメリカは皮肉にもヨーロッパ、イギリスの植民地の崩壊を助長しました。白人主導のアメリカはその後朝鮮戦争やベトナム戦争で失敗し(アジア人に負けたわけです)、イラク戦争もハッセンの死刑とイラクの"民主化"で一見成功したかに見えますが現実は失敗です(アラブ人に負けたわけです)。こうした失敗の連続で白人男性中心の政治、社会制度、価値観がヨーロッパ、イギリス、アメリカで崩れてきたのは明らかです。イスラム過激派のテロ行為が国家安全を脅かすほどに大きくなってきたのは白人中心政治の弱化の証拠です。アメリカでこの傾向に拍車をかけたのは60年代から高まった市民権運動で少数派、特に黒人の政治への進出が目立ちました。

白人がアジア人やヒスパニックより黒人のほうが受け入れやすい背景には、黒人は白人がかって支配した奴隷の子孫だからコントロールしやすくて脅威にはならないという(無意識の)感覚があるからだと思います。ひとつ興味があるのは、白人男性にとって白人女性を大統領に選ぶことには抵抗があることです。ヒラリー・クリントンやサラ・ペ-リンに対する白人男性ジャーナリスト達の報道態度は偏見(および反感)に満ちていました。こうした背景を考えるとオバマが大統領に選ばれたことが納得できるのではないでしょうか。

来年1月に大統領就任後オバマが直ちに処理しなければならない問題は山積みしています。金融、経済活性化、健康保険、財政赤字、税金、国家安全保障、エネルギー問題、イラク撤兵、不法移民などなど。対外的にはロシアやイランとの外交など。大統領選挙戦でオバマはリベラル左翼の政策を打出し、富裕階級から税金を取り立て中流階級への税金負担を減らすと強調していましたがその実行は保守派(右翼)が強い潜在力をもってる現実では難しいでしょう。これからは次第に右よりの政策にかわっていくでしょうがそれに不満な左翼のリベラルや右によるとは言えリベラルすぎる政策に不満な右翼の両方から批判が高まることでしょう.その扱い方をあやまると命を狙われる可能性もあります。オバマは若くてやる気十分ですからなんとか現在の問題多い状況を切り抜けて経済の活性化に成功してくれるよう願っています。
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次期大統領に選ばれたオバマ

志知 均 12月11日

次期大統領にアフロ・アメリカン(黒人)のバラク・オバマの選出、またこの秋に始まった金融危機が経済危機へと広がってきている現状を見ますとアメリカの社会、経済の全体がおおきな転換期に入ってきたのを痛感します。社会の根底が揺らいでいるという意味で今のアメリカは1930年代初めのアメリカに比較されます。1929年1月に大統領に就任したハ-バ-ト・フ-バ-(共和党)は就任演説で "I have no fears for the future of our country” と述べましたがその年の10月に株の暴落が起こり “Great Depression” が始まりました。(因みにブッシュ大統領はこの夏までアメリカ経済は本質的に健全だと言っていました。)フ-バ-政権は金融機関や鉄道会社その他の企業の建て直しに20億ドルを超える、融資をしましたが失業者は増えるばかりで1933年には1500万人に達しました。そのような状況のもとフ-バ-に愛想をつかした選挙民が次期大統領に選んだのがフランクリン・ル-ズベルト(民主党)でした。

選挙戦で公約したNew Deal政策をル-ズベルトは次々に立法し行政に移しました。なかでも失業保険制度(Unemployment Insurance)、証券取引法(Security Exchange Act)、社会保障制度(Social Security System)、テネシ-渓谷開発公社(Tennessee Valley Authority)、連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation)の設立などは特筆に価します。また公共事業計画(PWA,WPAなど)が推進され、学校、道路、灌漑などの建設に数百万人の失業者が採用されました。PWAやWPAで親や従兄弟が雇われ苦境を切り抜けたというシニアの知人の話を聞きますとたいへんだった当時の社会情勢を身近に感じます。1935年に成立した労働関係法は組合の団体交渉権や不適当な労働環境を会社側が改善する義務などを規定しました。ル-ズベルトのこのような政策はかなり社会主義的なもので資本主義を標榜する保守派から非難されましたがその施行に成功した理由の一つは、知人によれば大統領がラジオで毎週国民に話しかけたコミュニケ-ション(炉辺談話として有名)でした。

75年前の経済危機の時に比べれば今回の経済危機はそれほど深刻ではないと言う人もありますが、失業率の増加、マイナスのGDP,破産する会社や閉業する商店の増加をみていると不安は高まります。議会が金融機関に7000億ドルの救済融資を決めたにもかかわらずクレジットの流通は凍結状態です。その結果、住宅売買、建設は停滞し、自動車産業は破産寸前です。国民はオバマに大きな期待を寄せていますが,ル-ズベルトがやったように金融、経済機構の立て直し、失業者の救済などを迅速にできるかどうか注目されています。オバマは失業対策として公共事業の促進やオイルに代わるエネルギ-源の開発プロジェクトを公約していますがこうした政策には多額の出費($1 trillion dollars…100兆円以上)が必要です。 孫の代まで政府の財政赤字が残るかも知れません。
1930年台の大不況はドイツ、日本のファッシズムの台頭を促し第二次世界大戦をもたらしました。今回の大不況がテロ活動の活発化や地域戦争の勃発だけでなく大国間の冷戦の再現を招くことにならないように願っています。
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