『給食』という制度ができる前、つまり昭和20年の敗戦以前の小学生や中学生は自分の『弁当』を教科書などと一緒にカバンに入れて学校へ持参したものだ。おおむね主婦である母親が用意した。基本的にはご飯、それにおかず、海苔、梅干し、などが主な献立でアルミの容器に詰められていた。他の級友の弁当の中身を盗み見て優越感にひたったり劣等感に陥ったり、ささやかな競争意識を感じた甘酸っぱい思い出をお持ちの方もあるだろう。形は四角、小判型、などで、食欲が旺盛になるにつけ、肉体労働者が使うような大きな容器に移行した。土方(どかた)の弁当箱だから『ドカ弁』と呼ばれた。

駅弁
汽車路線の各駅で売っている弁当が『駅弁』。地方色豊かなのが魅力で、横浜の『しゅうまい弁当』とか大船の『鯵(あじ)弁当』その他諸々全国津々浦々、数え挙げたらキリがない。汽車が発車し動き出してから窓から買い求めると売り子(大方中年だが)が走りながら客と取引きする瞬間は、正にプロの早業で新幹線では味わえないスリルが満点だった。
弁当屋
学生の弁当や駅弁が時代遅れになり衰退したと思っていたら、別の形で発展していた。街角に弁当屋が現われ、学生や会社勤務の人々その他が利用して繁盛している。駅弁は大都会のどこかで『全国の駅弁』売り場があって、汽車に乗らなくても日本中の駅弁が選り取り見取りだ。便利といえば便利だが、郷土色の雰囲気が堪能できるかどうかは保証の限りではない。
盛り合わせ弁当
街角の弁当屋が繁盛しているのを、本格的なレストランが指をくわえて黙っている筈が無い。元々メニューにあったのだが、陽の目をみるようになった。間仕切りのある漆(うるし)の器にピカピカの白米はもとより、刺身、てんぷら、とんかつ、漬け物の数々が所狭しと盛り付けられている。日本料理としては珍しく食べ切れないほどの量があるので会席などでは人気を博している。
スーパー弁当
スーパーマーケットやコンビニエント・ストアーは消費者の好み傾向を敏感に反映する。日本はおろか、アメリカでも『弁当コーナー』が設けられ、『寿司』や『のり巻き』など日本食の普及にも一役買っている。
BENTO
かくして、吾が愛すべく誇るべき『弁当』は国際的な市民権を獲得し、その名も『BENTO』として知られるようになった。その普及ぶりは、以下、9月8日付けニューヨーク・タイムズ紙上でサマンサ・ストリィ(Samantha Storey)が紹介した記事の一部からご想像いただこう。
BENTOの特長の一つとして、食事摂生(ダイエット)の配慮があり、献立の配分や量が適正にコントロールされているのに感嘆する。BENTOは、子供の健康を考慮する母親にとって、うってつけの方法だ。そして日本伝統の『母親の愛』が盛り込まれている。
2才になった娘のためにBENTO作りを日課としている中国系アメリカ人のシェリ・チェン夫人(Sheri Chen)は「お弁当作りは、私にとって一種の儀式なの」と信じている。

不特定多数のBENTO愛好家たちのために、インターネット通販で、動物や花の型とかBENTO用の付属品が用意され、その販売量は確実に伸びている。(末尾のサイト案内を参照あれ)
イェール大学(Yale University)で東アジア研究と政治学を専攻しているジョーダン・スミス(Jordan Smith: 20才:右の写真)は、フロリダ州ポート・オレンジでBENTO箱の製造を始めた。スミスの初期の目的は、彼が属しているフットボール・チームの健康を管理し、食事の栄養バランスを保つために、BENTOが最適であることを発見したからだと言う。それに「日本文化は日毎に人気を博しています」と付け加えた。
[この他に、BENTO礼賛のエピソードが続々と報告されているが、余りにも数が多いので、ここで切り上げ、筆者ストリィが取材したBENTOの一部をご紹介する。]



(左)デボラ・ハミルトン(Deborah Hamilton 40才)夫人が夫と4才の息子のために作ったBENTO.夫人は lunchinabox.net というブログに寄稿している。
(右)ハミルトン夫人のBENTO。夫人は「手を掛けたり華やかにするのも良いし、単純なものでも良いし、その時の気分で自由に創造できます」と言う。



(左) アスター・センティアティ(Aster Sentiati)夫人は『bentomom(べんとうママ)』というスクリーン名で写真交換サイト『Flickr.com』へ、子供達のために作ったBENTOの写真を送っている。 (右) センティアティ夫人作のBENTO 。



(左)ワシントン州エドモンドのデブラ・リトルジョン(Debra Littlejohn, 52才)夫人 は、夫と共に月平均約400ドル昼食費に支出していると見積もる。前の晩の夕食の残りをBENTO箱に詰め直している。
(右)リトルジョン夫人は「毎晩、翌日の昼食を用意するのが私の創意のBENTOです」と語る。

このBENTOは食べられない。データベースのソフトウェアだからだ。多分、弁当箱の間仕切りのアイディアをデータの整理整頓に応用したのではあるまいか。BENTOの普及振りの一端を物語る現象としてご紹介する次第。
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BENTO箱やその付属品を販売するサイト:







1 件のコメント:
弁当!開けてビックリ玉手箱ならぬ弁当箱。
フタをとる時の期待は何とも言えず、ミステリアスで心がときめきます。弁当文化、永遠なれ!
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