2010年6月26日土曜日

ドラゴンの刺青のある女

志知 均(しち ひとし)
2010年6月25日
スリルのある小説はないかと探していたら、米文学教授の友人から最近話題になっているスティーグ・ラーソン(Stieg Larsson) の三部作、The Girl with the Dragon Tattoo』;『 The Girl who played with FireThe Girl who kicked the Hornets nestをすすめられた。

この小説の主人公であるリスベス・サランダー(Lisbeth Salander)は身長5フィート(約152センチ)足らずのやせた女性で背中にドラゴンの刺青(いれずみ)をしている。自閉症のため社交性はゼロ。学校教育も不十分で皆に知能が低いとみられている。ところが実際はIQがきわめて高く、数学の問題を解くのが趣味でコンピューターを駆使するのはプロ以上にできる。

小説の「さわり」を紹介しよう。

The Girl with the Dragon Tattooは、40年前に消息不明になったスエーデンの大実業家の孫娘を、サランダー(Salander)と彼女を助手にやとったジャーナリスト、ブロムクヴィスト(Blomkvist)が一緒に探す話だが、女性連続殺人事件や、その実業家の会社の経営危機がからんでくる。ブロムクヴィストは殺人犯を追い詰めるが、殺されそうになるところをサランダーに助けられる。三部作の第一部はそれだけで話が完結している。

それに対しThe Girl who Played with FireThe Girl who kicked the Hornets' Nestは続きものになっている。ブロムクヴィストが発行人になっている雑誌ミレニアム(Millennium)の記者が外国人売春婦を不法入国させる組織を調べているうちに、何者かに殺されるのが事件の発端。凶器にサランダーの指紋がついていたことから、サランダーは警察に追われる身となる。ブロムクヴィストサランダーの無実を信じて調査をはじめる。

話がさかのぼるが、サランダーの父親ザラチェンコ(Zalachenko)はソビエトからスエーデンへ亡命したスパイで、スエーデン秘密警察がかくまってきた。この秘密警察には知られざる憲法違反行為がいくつかある。ソビエト崩壊後は旧スパイとして価値がなくなった ザラチェンコはスエーデン国籍をもらうが、麻薬や売春中心の犯罪組織を作る。ミレニアムの記者を殺した犯人は誰か?サランダーは無 実か?秘密警察の憲法違反行為は暴露されるのか?

ボクシングできたえた
サランダーの動きは敏捷で、その行動は アンジェリナ・ジョリー (Angelina Jolie)演ずる『Tomb Raider』のララ・クロフト(Lara Croft)を思わせる。ラーソンの三部作はスパイ小説ではないが、ジェーソン・ボーン(Jason Bourne) が活躍するロバート・ルドラム(Robert Ludlum) の小説に匹敵するくらいのスリルと面白さがある。日本語訳も出ているということだが、各部ともポケットタイプの上下2冊づつで計6冊になる。英語訳は三部3冊とも出ているので、いずれを選ぶとしても、この夏の読み物としておすすめする。

著者について一言。今春5月にTime誌にのった記事によると、スティーグ・ラーソンは三部作の原稿を出版社に渡して6ヶ月後の2000年11月のある日、彼が主宰する反ファシズム雑誌の事務所へ行くため7階の階段を登ったところで心臓麻痺をおこして50歳で急死した。三部作がベストセラーになることも知らずに!(右はラーソンの伝記本の表紙、左はラーソンの肖像スケッチ)

人口900万のスエーデンで350万部。フランスではハリー・ポッター(Harry Potter)以上の売れ行き。ヨーロッパ、イギリス、アメリカでベストセラー。スエーデン製の映画The Girl with the Dragon Tattooはアメリカの映画館でも最近上映された。ハリウッドはアメリカ版の映画を目下製作中。

本や映画からの収入は1億ドル近くになると予想されていが、誰が相続するのか?まずスティーグ・ラーソンとは生前不仲だった父親が相続権を主張している。一方ラーソンには、結婚してい ないが32年間寝食を共にした実際上の妻、エヴァ・ガブリエルソン(Eva Gabrielsson)がいる。(スエーデンでは結婚すると住所を公表しなければならない。反ファシズムの運動家である ラーソンはお互いの身の安全のため結婚しなかった。) 現在ガブリエルソンラーソンの親族との間で相続裁判が起きている。

---------------------------------------------------------------------------------------

スティーグ・ラーソンの本を購入なさりたい方は下記からお選びください。

アメリカ在住の方
The Girl With the Dragon Tattoo
The Girl who Played with Fire
The Girl who Kicked the Hornets' Nest

日本在住の方で英語訳をご希望の方
The Girl With the Dragon Tattoo
The Girl who Played with Fire
The Girl who Kicked the Hornets' Nest

日本在住の方で日本語訳をご希望の方
 ミレニアム1『ドラゴン・タトゥーの女』上、下
 ミレニアム2『火と戯れる女』上、下
 ミレニアム3『眠れる女と狂卓の騎士』上、下

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

アクション、ミステリーに女性の進出が目覚ましい今日この頃です。『強い女』が小柄で美人、おまけに頭の回転が早くて男に負けない拳闘技を使う、というのがべストセラーの秘密でしょうか。