トム・キートン(Tom Keeton)
正直なところ、私は『プラチナのベンツ』は疑わしいと思った。いや、アラブの富豪やウオール街、金融業の会長だったら、プラチナ製の車を買う余裕は充分にあるであろうことは全く疑いの余地はない。
私の疑問は自動車の構造上の機能についてだ。ベンツ、クーペの車体全てがプラチナだったら、たとえ強化加工されていても熱、圧力や振動には耐えられまい。当然エンジンは鋼鉄の鋳型でなければなるまい。それが金、あるいはプラチナだったら、内燃機関エンジンが作動する際に生ずる高熱で溶けてしまうだろう。
ただ一つ考えられる可能性は、全ての板金(鉄鋼、アルミ、などから作られた)の表面を電気的にプラチナ鍍金(メッキ)加工することだけだ。そうすれば、圧力や振動に対する耐久力を維持しながら、ピカピカ煌めいているであろう。
いずれにしても、変わった突飛な話だ。
それに関連して思い出したのが、ボーイング社(Boeing)製の飛行機に必要な部品を供給していたギャレット部門が受けた特注内装のことである。一時期、特注航空機の内装を3機、同時に制作していた。
その第一機は『グリーニィ(greenie)*』727-200型(右は同型の商業機)の内装について。プラスチックや繊維ガラスなどは退け、織物の生地、木材の選択、何もかも全て豪勢な材料を調達していた。目につく金属は無垢(むく)の純金、構造的に堅牢さを要求される部分には金は不適当なので鋼鉄を使っていたが、それも厚手の金メッキが施されていた。
その第二機は同じく『グリーニィ(greenie)*』727-100型(右は同型の商業機)の内装で、贅沢な織物生地やマホガニーで被われていた。勿論プラスチックはどこにも使われず、金属部分は厚手の銀メッキだった。ハイライトとも言える部分は円形のベッドがある寝室で、豪勢にして繊細な雰囲気を醸し出していた。
その第三機は中古の727-100型(右は同型の商業機)を改装したもので、内装は良く仕上がっていたが、驚くほどのものではなかった。窓枠、テーブル等々、ごく普通のプラスチック、フォーマイカ、研磨された木製卓などであった。
いずれも自家用機で、豪勢な第一機はアドナン・カショギ(Adnan Khashoggi:上の写真左)、悪名高い石油の仲買人、アラビア首長の所有だった。 第二機の持ち主は、ヘンリー・フォード・ジュニア(Henry Ford Jr.:上の写真中 )。正確に言うと、フォード・モーターの社用機だが、実際にはヘンリーが独占して飛び回っていた。 第三番目の飛行機はヨルダン王、フセイン(King Hussein:上の写真右)の所有だった。
この教訓:一国の王、一企業の社長になる勿れ。石油産出国の仲買人たれ。さもなくば、贅沢を極めた飛行機で飛び回れない。
註:*『グリーニィ(greenie)』とは、航空機生産場の用語で、組み立て工場から出来立てホヤホヤで、内装がなく骨組みが露わな飛行機。操縦席、客席など全ての内装は特注仕上げ工場( the custom house) で取り付けられる。自動車の完成も似たような工程をたどる。
1 件のコメント:
お金に縁が無いから、というわけでもありませんが、プラチナのベンツを乗り回したり、贅沢な飛行機で飛び回りたいなど、ついぞ思ったことはありません。
コメントを投稿