今でもラーメンは二日に一度は自前で調理しています。生麺が近隣で手に入らないので、止むを得ずインスタントを使いますが、野菜、肉、エビなどを投入して栄養価を高めるよう心掛けています。 先日、今回のニューヨーク・タイムズ記者の探訪報告を読んで。東京のラーメン文化が驚異的に成長多様化し、外人まで病み付きになっていることを知り、ご同慶の至り、隔世の感に堪えません。
マット・グロス(Matt Gross)
1月31日付け、NYTから
1月31日付け、NYTから


音といえば、客がソバやダシの利いた汁をズルズルとすする音だけ。火傷しそうに熱いソバ汁をすする音は、かすかに聞こえるラジオの音楽を背景に、大らかに、長々と、調理人の腕を讃えるかのように合唱し、音響効果の役割を演じている。
「ごちそうさま。」一金700円也、を支払って白昼の横町に出ると『頑固』での体験が幻覚の世界で起こったような気がする。

Ramenate!だけが、ラーメンに関する唯一のブログではない。他にも日本語、英語で幾つものブログがラーメン情報を公開している。ブログの他に、多国語のガイドブック、色刷りのラーメン情報雑誌、データベース、コミック本、テレビ番組、映画(古典になった『タンポポ(1985年)』など)、それらを綜合しても、東京におけるラーメン事情の、ほんの一部を紹介しているに過ぎない。
(日本を知らないアメリカ人に)これだけ言っても納得いかなかったら、ニューヨーカーのピザ好き、ホトドッグ好き、ハンバーガー好き、などを思い起してみればよい。東京人のラーメンへの『こだわり』はそれに匹敵、またはそれ以上なのである。
ここで紹介しているラーメンは、学生間で流行っている例の乾燥したインスタントではない。有名な店のラーメンでも、ちっぽけな屋台のラーメンでも、全て生麺を使っているのだ。手製で、自家製の汁、赤ブドー酒に漬けた豚肉、醤油味の鶏ダシ汁、豚骨(とんこつ)のダシ汁、といった材料が九州から本州へかけての好みのようだ。札幌のニンニク風味のミソ味の濃い汁で太目のソバも満更ではない。いずれにしても、風味は調理人が工夫して創り上げるもので、時代の変化にも影響され移り代わっている。
去年の11月、私は6日以上も続けて東京のラーメン文化にどっぷりと浸ってみた。有名な店から小さな店まで、一日平均4杯を標準に食べ歩き、何が味の決め手になるかという材料調べだけでなく、注文の仕方、ラーメンの食べ方、などの作法まで身に付けた。こうした探訪をしながら、私は何故こんな単純な『食べ物』(17世紀中、孔子の教えを広める使者たちがもたらした食品)が、日本人ばかりか我々外国人まで夢中にさせたのかを知れば、東京そのものをもっと深く理解できるのではないか、と考えるようになった。
私の探訪記事のネタは、サンフランシスコで英語を教えていた31才のブライアン・マクダクストン(Brian MacDuckston)が出しているウェブサイト<RamenAdventures.com(このサイトは目下不能)>に負うところが大きい。長身で色白、禿げ上がって眼鏡が似合うマクダクストンは、すらりと細く、その容姿自体がソバみたいだ。事実、彼は3年半の日本滞在中に体重が減った。料理ブロッグ家達の間では傑出した存在である。

「その時は、すごく美味しいと思った」と回想する彼。焼豚がたっぷり載ったその店の特製ラーメンが、最近テレビで紹介された。「焼豚の切り身、シチュウの豚肉、そして豚肉のミートボール、おまけに豚の挽き肉の山、信じられない位の旨さでしたよ」思わず彼は唾を飲み込む。
彼はすっかり病み付いきになった。以来、インターネットで評判の高い店を検索しては店を探し当て、何時間も行列に並んだ。「まるでバカ丸出し、と思うでしょう。たかが汁ソバを食べるのにですよ、二時間も並んで待つなんて。何か強烈に惹かれるものがあるんです」彼は告白する。まあ、バカ、気違いと言ってしまえばそれまでだが、僅かな仕事と失業保険で暮らしている内にブログを始めた、という訳だ。

よくある勘違いだが『凪』の店構えは、ラーメン好きの客で繁盛している店、というより高級料亭の風格があったからだろう。食堂はしっとりと落ち着いた雰囲気、壁は茶色い小麦粉袋が貼られ、一般的な自動販売機で食券を買うのではなく、ウエーターに注文し、彼は客の好みのソバの茹で加減(堅めか柔らかめか)まで確かめる。我々は、腰の強い茹で加減(バリ)を頼み、注文通り、美味しいモチモチで堅めのラーメンが運ばれてきた。旨いの何の、それは絶品で、でも丼に汁が残ったので、ソバ玉の追加注文をして平らげたほどだった。


マクダクストンと私が店を出たら、後から若い女性も出てきた。通りで私たちに近付き、自分は長島カナという者で、10年程シンガポールの大学で『ラーメン・クラブ』を組織していたが最近帰国した、と自己紹介した。たいへんに快活で『バサノヴァ』のラーメンには我々同様に印象付けられたようだ。別れ際に、マクダクストンと彼女は同好者としてお互いの連絡先を交換していた。

オウキンに言わせると「日本人がラーメンに取り付かれた理由は、その味が普遍的なものだったから、、、」だそうだ。「値段から言っても、誰でも払える価格です。丼一杯の盛り付け、単純にバランスが取れています:汁、ソバ、添え物、全てがまとまっているでしょう。だから一杯のラーメンを食べると、誰でも必要な食材料が腹に収まるのです。」なるほど、尤もだ。

店に入ると、照明が明るく穏やか、テーブルやカウンターとの間が広くとってあった。調理人やウエーターは応対が快活で優しく、黒いシャツのボタンはきちんと喉元まで止められ、微笑をたたえていた。正にオアシス、典型的なラーメンの男性的なイメージを拒絶しているラーメン店のガイドブック『女性のヌードル(ラーメン?)・クラブ』で推薦されたのも無理からぬことだと納得した。
で、『斑鳩』ラーメンの味は?正統なラーメンから見たら異端者のようだが、豚骨ダシの汁に微かなカツ節を嗅ぎ取ったし、焼豚の切り身の縁にキャラメルの甘味が残り、新鮮で、ソバを口に入れ、半熟卵を噛んだ歯応えも脂気は少々。ここのラーメンで完璧さと満足感を堪能した。

ボブは「(『二郎』は)ホワイト・キャッスル(the White Castle:ハンバーガー、チェーン)のラーメン版です。この店のラーメンは、安くてお手軽、守るべき伝統的ルールを無視しています。丼は大型、ソバは粗め、汁は濃く、モヤシやキャベツが山盛り、細切れの豚肉はニンニク漬け、それにニンニク、又ニンニク、丼から溢れる程です。味といったら信じられない、何とも形容の仕様がありません」と説明してくれた。


チェンのアシスタント、横井なお子は「若い人々の間でラーメンが流行の先端として考えられるようになりました。どのラーメン屋が格好(かっこ)良く、有名店がどれかを熟知していることが人格の一部として評価されているんです」と分析していた。
ボブはずばり「この世の中でソバが嫌いな人なんていません」と断言。



ある夕方、私がソヒィ・パーク(Sohee Park)とチーズ粉まぶしのラーメンを食べていた時、2008年に公開された、ブリタニー・マーフィ(Brittany Murphy)扮する野心的なラーメン調理人が主人公の映画『ラーメン・ガール(The Ramen Girl)』が話題に上った。彼は結論として(私も同感)、「試してみるのは愉しい」ことだった。
「試してみるのは愉しい」だけでは充分ではなかろう。だが東京では、、、この大都会は、しばしば、あらゆる機会が開放されて体験できる反面、しばしば、特殊な社会が閉鎖的で、、、「試してみるのは愉しい」機会はまだまだ未開拓の分野だ。それは固く閉ざされているものを軟化させ、病み付きこだわりの瀬戸際で、45分も無駄な時間を潰したり、「火曜日休業」の札に失望したりすることもある。
例えば、マクダクストンと私が『凪』で食事をした晩のこと。渋谷の雑踏をかき分けていた時、ある若い人々の列が通りにはみ出しているのをチラと見付けた。彼はラーメンを『追求』する欲望に満ち満ちた眼差しで、列のドン尻にいた女性に「何を待っている列ですか?」と日本語で尋ねた。彼女の答えは「エレベーターです。」
ともあれ、我々は『追求』し、渇望して挫けることはない。どこかで我々を待っているに違いない、次に試食するラーメンの丼に素晴らしい味を発見するまでは、一晩中歩き廻っても構わない意気込みだ。
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インターネット案内の一部
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◆ RamenTokyo.com
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ラーメン店の所在地
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★ イワン・ラーメン, 3-24-7 世田谷区南烏山; (81-3) 6750-5540; ivanramen.com
★ 新横浜ラーメン博物館, 横浜市港北区新横浜2-14-21; (81-45) 471-0503;
raumen.co.jp/ramen/
★ 斑鳩いかるが, 千代田区九段下1-9-12; (81-3) 3239-2622; emen.jp/ikaruga
★ バサノヴァBasanova (または Bassanova), 世田谷区羽根木1-4-18; (81-3) 3327-4649
★ 中華そば井上 4-9-16 Tsukiji, Chuo-ku; (81-3) 3542-0620
★ 凪, 渋谷区東1-3-1; (81-3) 3499-0390; n-nagi.com
★ けいすけ四番店, 文京区本駒込1-1-14; (81-3) 5814-5131; keisuke
★ 無敵家, 豊島区南池袋1-17-1; (81-3) 3982-7656; mutekiya.com
★ 二郎, 本店、支店の所在地、営業時間などは ramentokyo.com/2007/06/ramen-jiro.html
1 件のコメント:
ここに登場する外人たちの熱中振りには、感心させられました。僕も『試して合点」してみたくなりました。
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