志知 均 (しち ひとし)
2010年2月
2010年2月

イタリーでは『恋人たちの日(Festa degli innamorati)』とも呼ばれるこの祝日の起源はロマンチックとはいえない。一説によれば、3世紀のローマ帝王クローディアス2世(Claudius II)は兵隊が家族持ちになると弱くなるという理由から若者の結婚を禁じた。ヴァレンタイン神父はそれを不当として、ひそかに若者たちの結婚の司祭を続けていた。それが発覚して帝王の怒りを買い死罪になった。
後世、カトリック教会は神父を殉教者としての功績を讃え聖者(Saint)にした。こうしてヴァレンタインは『ロマンスと縁結び』の聖者になった。ヴァレンタインズ・デーが2月14日なのはローマでは2月に豊穣の祭りと重なったのが理由らしい。

ロマンスとハートの関係はギリシャ/ローマ神話、キューピッド(Cupid:右の彫刻、1808年頃の作品)とプシケ(Psyche:左下はミケランジェロの壁画、眠るプシケとエンジェル達)の話に由来する。この有名な話は周知のことと思うががあらすじは次の通り。

その神託に従ってプシケ(右の絵は、ウイリアム・アドルフ・ボウゲロウ: William Adolphe Bouguereauの作、1889年)は荒涼とした岩山へ登り、夜の暗闇の中で夫になる若者に出会う。その若者とは暗闇の中でしか会えないという約束で会う瀬を重ねるが、プシケはある夜どうし


それらの難題をこなしたプシケは大神ジュピター(Jupiter)の許しを得て、不死の生命を受け(つまり神の列に加わり)キューピッドと結ばれる。めでたし、めでたし。(左の絵は、ウイリアム・アドルフ・ボウゲロウ: William Adolphe Bouguereauの作、1889年)
プシケに出された難題は現代では解決するのは容易だ。穀物(有機物)も無機物も高度の分離器機を使えば分けられないものはないし、地球の最高峰の水や極地の水は気象変化の調査のために定期的に集められている。地獄の所在がマグマに近い地の底だとすれば、油田開発で掘り下げてその地層を調べ金やダイアモンド(地獄の女王の美)が見つかっている。現代の科学技術を支えるのは(論理)理性だから、愛の神キューピッドが感性の具現であるとすれば、プシケは理性の具現といえよう。したがって、この神話は理性と感性との合体によって真の幸福が得られることを教える寓話ともとれる。
だれしも愛(感性)と期待(理性)が相和したロマンスを求めるが現実には中々難しい。『恋の季節』(ピンキーとキラーズの1968年ヒット曲)はいつ『涙の季節』に変わるか判らない。最近の若い人たちは失恋が痛手にならないように『恋活(相手を取り替え引っ替えて自分を「鍛える」恋愛生活)』を長くやるそうだ。
ある日突然、自分がもう若くないのに気がついて『婚活(本気になって結婚相手を探す生活)』を始める。恋活で異性に対する目が肥えているから理想の相手はなかなか見つからない。こうした人口が増えているから新聞や雑誌に広告がでる『Lonely Heart Club』やインターネットの社交クラブが大繁盛している。
ある調査によれば日本ではヴァレンタインズ・デーに女性がチョコレートを贈る相手は第一に父親、次に男性上司、それから男友達だそうだ。これでは結婚するカップルが増えないのは当然だ。縁結びの神と一緒になって、聖ヴァレンタインが日本で頑張ってくれることを期待したい。
1 件のコメント:
愛は限りなく与え、そして奪うそうです。
それが嫌だったら、恋愛も結婚もしない方がいいでしょう。
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