追悼:仏映画製作者エリック・ロゥマァ;89才

ロゥマァの美的感覚は、フランスの『新しい波』派の中では最も保守的だった。『新しい波』派は、1950年代の後半から1960年代にかけて若い過激な批評家たちが起した運動で、世界中の映画製作者たちに強い影響を与えた。彼らの理念を簡単に言うと、美男美女が主役でハッピーエンドで幕を閉じるいわゆる典型的なハリウッド映画に反発し、ある意味では『自転車どろぼう』のようなイタリアのリアリズムに共鳴した映画製作を推進したのである。

フランスの大統領ニコラス・サァコージ(Nicolas Sarkozy)はロゥマァの死を悼み「古典的でロマチック、賢明なる偶像破壊者、軽妙にして真剣、感傷的だが道徳的、そうしたロォマァの作品は、彼の死後も語り続けるであろう」と弔辞を発表した。

一方私生活でのロォマァは、ゆったりと気楽に暮らしていたようだ。実は『エリック・ロォマァ』はペンネームで、1920年3月21日にフランス南西部のチュール市(Tulle)で誕生した時はモーリス・アンリ・ジョセフ・シアー(Maurice Henri Joseph Schérer)という名を授かった。他説によると、フランス北東部のナンシー市(Nancy)で生まれ、ジャン・マリィ・モーリス・シアー(Jean-Marie Maurice Schérer)だった、とも言われる。

ロォマァはリヴェットと『ラ・レヴュウ・デュ・シネマ(La Revue du Cinéma)』という映画雑誌を発行した。5冊目を発刊した所で行き詰まり、若いトラフォが発行していたレ・カイエ・デュ・シネマ(Les Cahiers du Cinéma)の批評スタッフに参加した。その雑誌は、既成の大映画会社の製作された映画を痛烈に酷評するという編集方針で流行を先駆けていた。

ロォマァの映画開眼の切っ掛けは、1962年に26分の短編『パン屋の娘(The Bakery Girl of Monceau)』だった。これは[6つの道徳物語り]シリーズの第一作で彼自身が台本を書いた。映画を作りたいと秘かに描いていた彼の夢が開花したのである。

ロォマァの弟、哲学者のルネ・シアー(René Schérer)は健在、遺族は奥さんと二人の息子だが、故人の遺志で家族の詳細は公表を控えている。
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エリック・ロォマァの主な作品
★獅子座:The Sign of Leo (1959)
★La Boulangere de Monceau (1963)
★La Carriere de Suzanne (1963)
★ナジャのパリ:Nadja A Paris (1964)

★モゥドとの一夜:My Night at Maud's (1969) 仏題名: Ma nuit chez Maud[上のDVD、左から2番目]
★クレアの膝:Claire's Knee (1970) 仏題名: Le Genou de Claire
★クローの昼下がり:Chloe in the Afternoon (1972) 仏題名: L' Amour, l'apres-midi[上のDVD、左から3番目]
★ The Marquise of O..(1976) 仏題名: La Marquise d'O...[上のDVD、左から4番目]
★Perceval (1979) 仏題名: Perceval le gallois[上のDVD、右端]

★善い結婚:A Good Marriage (1982) 仏の題名: Le Beau Mariage[上のDVD、左から2番目]
★浜辺のポウリーン:Pauline at the Beach (1983) 仏題名: Pauline a la Plage[左から3番目]
★満月のパリ:Full Moon in Paris (1984) 仏題名: Les Nuits de la pleine lune[左から4番目]
★緑の日差し:The Green Ray/Summer (1986) 仏題名: Le Rayon Vert

★レイネットとミラベルの四つの冒険:Four Adventures of Reinette and Mirabelle (1987) 仏題名: Quatre aventures de Reinette et Mirabelle
★冬物語り:A Tale of Winter (1992) 仏題名: Ein Wintermarchen
★木、市長、仲介人:The Tree, the Mayor and the Mediatheque (1993) 仏題名: Le Arbe, le maire et la mediatheque
★パリでの出逢い:Rendezvous in Paris (1995) 仏題名: Les Rendez-vous de Paris
★夏物語り:A Summer's Tale (1996) 仏題名: Conte d'ete

★春物語り:The Tale of Spring (1998)[上のDVD、左から4番目]
★貴婦人と公爵:The Lady and the Duke (2001)[上のDVD、左から2番目]
★三重スパイ:Triple Agent (2004)[上のDVD、左から3番目]
★アストリアとセラドンの恋:The Romance of Astrea and Celadon (2007) 仏題名: Les Amours D'Astree Et De Celadon
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お知らせ:★色の題名は、DVDでネットフリックス(Netflix)からレンタル,又はアマゾンから購入できます。英語の題名で検索すると見付かります。日本語の題名では登録されていません。
1 件のコメント:
1950年代の終わりから1960年代にかけて、ハリウッドが華やかにして下らない作品に巨額な製作費をかけていたのを思い出します。今たまに観ると、その無意味さにうんざりさせられます。
『新しい波』が人々の、特に若い人々の心を捉えたのは無理からぬ成り行きでした。
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