2009年11月9日月曜日

図書館よ、書籍よ、永遠なれ!

(議会図書館の内部)

サーゲイ・ブリン
(Sergey Brin)

グーグル社(Google)役員:
カリフォルニア州マウンテン・ヴュー市(Mountain View)

10月8日付けNYタイムズ評論より抜粋


近年の石油燃料の消費や、地球の温暖化に関連し、電力自動車(electric car)の将来性が注目されている。しかし、電力自動車の開発は昨今に始まったことではなく、自動車産業が台頭した19世紀の末期から実現していた。自動車産業の群雄は先ずエンジンの動力源で競われ、電気、蒸気、による動力が敗退してガソリン・エンジンがその即効性と馬力の強さで勝ち残った。私がその歴史を知ったのは、20世紀初頭に発行された『電力自動車に関する研究書』の数々を発見したからである。


これは一例に過ぎないが、年代を経た書籍の大半は名門校などの図書館に保管され、各界専門の研究家以外には貸し出しをしていないのが現状である。1923年以前に発行された書籍はとっくに著作権を失い一般の共有財産になっている。1923年以降に出版された書籍は急速に『流通機構』という暗黒の文書界の闇に消えていった。稀に特定の人々が僅かな時日の間に購入することもあるが、その後は図書館とか古本屋に流れ、残りは廃棄され、著者や出版社も忘れられ、探索の手がかりも失ってしまうのが常だ。

存在する書籍も、永年の内に痛んだり虫が食ったり、水害、火災で損傷する運命にある。私が1998年にスタンフォード大学(Stanford University)に在籍していた頃、水害で図書館の何千何万冊という書籍が水浸しとなり破棄された。同大ではそれを遡る20年前にも水害に遭っている。その詳細については1980年に発行されたスタンフォード・ロッキード、マイヤー図書館の水害記録(The Stanford-Lockheed Meyer Library)』でうかがい知ることができたが、皮肉なことにその本自体、今存在していない。


書籍は世界の知識や伝統文化の宝庫として重要な役割を果たしているが故に、10年も前に我々グーグル社(Google)の揺籃期に共同創立者ラリー・ペィジ(Larry Page)が、世界中に保管されている全ての書籍をデジタル化することを提案していた。その計画は途方もなく野心的な大事業計画だったので、誰もが協力をためらった。だがその5年後の2004年、グーグル・ブックス(後にグーグル・プリント[Google Print]と改称)が発足した。


その翌年、我々グーグルの計画に対して、著作家協会(The Authors Guild)アメリカン出版社協会(The Association of American Publishers)に著作権侵害を理由に訴えを起こした。彼らの訴訟理由は、我々の目標を理解していなかったようだ。
グーグル社の目標とは、再版される見込みのない膨大な数の書籍に秘められている知識を一般に開放すること、著作権保有者には適正な補償を支払うこと、であった。訴訟者たちの理解を得て、グーグル社は、著作家協会、とアメリカン出版社協会と合意が成立し、三方が満足に達したが、実質的な満足を勝ち得たのは一般の読者たちであった。今日までに10,000,000冊を超す書籍がデジタル化され、一般が探索できるようになっている。

勿論、グーグル社独占で世界中の書籍をデジタル化するわけにはいかない。今日までに、我々は議会図書館(The Library of Congress)を含めて、重要な書籍のデジタル化を成し遂げてきたが、他に同様な計画に参加する多数の企業が名乗りをあげてグーグル社の努力をもってしても行き届かない部分を補足してくれることを願いたい。(左の写真は議会図書館の正面)

最後に、著作権訴訟で合意した条件に基づいてグーグル・ブックスが品質を確保するために特定した目標に、参考文献表の質、分類法式、それにプライバシー方針などがある。以上は著作家協会とアメリカン出版社協会がグーグル社の品質管理に要求を固執している条件で、我々もその向上には積極的に努力を惜しまないつもりだ。


私がグーグル・ブックスで探索した1880年〜1881年:保険年表(The Insurance Year Book)』によると、コーネリアス・ウォルフォード(Cornelius Walford)が、一年間に何十もの図書館が何百万冊もの書籍を損傷したことを列記しているが、私はこの記録が人々に『書籍保存のためにデジタル化の必要性』を痛感させるのに役立てば、と願っている。
有名なアレキサンドリア図書館は、紀元前48年、西暦273年、西暦640年の三回も大火に見舞われ、蔵書の三分の二を焼失した、と伝えられている。

このような損失は再び起こってもらいたくないが「歴史は繰り返す」という。何より大事なことは、人類の文化財産が世界中の有数な図書館に秘蔵されていたとしても、人々が容易に借り出すことができないなら「役に立たない」と同じことだ。私がデジタル化の重要性を強調する由縁である。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

中国の『焚書』の故事でも知られるように、書籍は知識の源泉です。大切にしたいですね。