2009年11月13日金曜日

セックスの話:その2

異常な性は、Y染色体複製の成否による。

ニコラス・ウェイド(Nicholas Wade)
2009年9月14日、NYT紙より

数年前、回文(前から読んでも後から読んでも同じ文、例:"Madam, I'm Adam.")が、Y染色体の機能を保護するの重要な役割を果たしていることが判った。この地上に生きる全ての男子は、Y染色体を、6万年前に存在した男性(『アダムとイヴ“[Adam & Eve]』のアダム)から受け継いできた。女子は二つのX染色体を、両親から一つずつ与えられている。

この新しい発見には、意外な因果関係が判った。それは(染色体の)回文組織がもつ単純な弱点から、広範囲にわたる性の変わり種----女性的な男性、男性的な女性など-----の要因であることが判った。それは、ターナー症候群(Turner's syndrome)として知られるX染色体を一つしか持たない女性の肉体条件の男性版である。

染色体の回文は2003年、マサチューセッツ州ケンブリッジ市(Cambridge, Mass.)ホワイトヘッド・インスティチュート(Whitehead Institute)のディヴィッド・ペィジ博士(Dr. David C. Page)と、セントルイス市(St. Louis)ワシントン大学スクール・オブ・メディシン(Washington University, School of Medicine)内のDNA順列センターの共同研究者によって、Y染色体に含まれるG, C, T, A, の文字で代表される部分の順列の基礎から発見された。それは如何にY染色体の遺伝子が変形化から守られているかという謎を解く画期的な鍵と判って一同を驚かせた。


X染色体は父母から一つずつ与えられ一対で存在するため、X同士が助け合って矯正が可能だが、Yの場合は単独だから代替システムがない。自然はそのパートナーであるXとはその最先端以外は融合させない摂理になっている。男性志向の遺伝子がXに忍び込んで生じる、遺伝的な混乱を防ぐためである。


回文の発見で、如何にY染色体が、進化の過程で悪い遺伝子を廃棄してきたかが理解された。その主要な遺伝子は8個の大きな回文の順列を内蔵し、あるものは3百万個に上るDNA単位の長さを持つ。夫々の回文はヘアピンのように畳まれ、2本の腕を揃えている。細胞のDNAは2本の腕に異常があるかどうか自動的に検索し、間違いがあれば正しい順列に矯正し、Yの遺伝子が侵蝕されるのを妨げている。


ペィジ博士は回文を発見した後、システムに弱点があれば男性染色体の異常の要因になるのではないかと想定して研究の課題とした。博士はジュリアン・ランゲ(Julian Lange)と共に最新刊の『細胞(Cell)』誌で、Y染色体の『アキレス腱』とも言える弱点が、各種の性的異常の要因となっていると記述している。


細胞が分裂する以前に染色体を複製し、各々の一対が中心球で結合する時に、回文防御システムの危険事態が起こる。その直後、中心球が分裂し、それぞれの半分とその染色体が、分裂した細胞の反対方向に引き寄せられる。 だが、分裂する前にも見逃せない過失が起こり易い。Y染色体にある回文は、時に対向する隣りの回文に届き、致命的に魅き込まれることがある。2個のYの融合で合体した時、全てが接続してしまったり染色体の一端を失ったりしてしまう。

回文が不本意な融合をしてしまう状況にもよるが、複合Yがそのような活動をすると長さも変わってしまう。他の染色体のように、Yにも左腕と右腕の間に中心球がある。男性志向の遺伝子は左腕の先端近くにある。もし回文が右腕の先端にあって結合すると『長い複合Y』が出来上がり、二つの中心球が遠くに離れてしまう。また、回文中心球のすぐ右へ結合すると『短い複合Y』となり二つの中心球は接近できる。

ページ博士は、患者の中から複合Yの長い者、短い者、その中間の者を何人か選択した。博士と助手達は、患者がもつ複合Y中心球の位置の遠近によって、性的な容姿容貌が明らかな違いを示しているのに驚かされた。複合Yにある二つの中心球の位置が接近している患者は男性。一方、中心球の位置が離れている患者は解剖学的に見て女性的であった。一部の患者はまるで女性そのもので、ターナー症候群単一X染色体で生まれた女性の肉体条件に類似していた。この多彩な様相は、細胞分裂の際、複合Yに起きた状況が胎児の性を決定付ける要因になる、というのがページ博士の見解である。[註:この場合『患者』とは病人という意味ではなく、博士の研究に協力している人々のことである。]


二つの中心球が接近している時は、分裂した細胞の一方に片寄っていて一つに見える。Yの男性志向の遺伝子が胎児の性組織または性腺の細胞中で活動的である限り、性腺は精巣(睾丸)となりそのホルモンは他の部分の筋肉を発育させる。

しかし、二つの中心球が遠く離れていると染色体に混乱が生じる。細胞分裂の最中、中心球は両方とも細胞分裂機能によって認知され、複合Y染色体同士の引き合いで、時に生存し、時に破壊されて細胞の中で失われてしまう。


かくして個人それぞれが、複合Yのある細胞や、Y染色体が不在の細胞など、様々な状態の細胞を抱えている。様々な細胞が胎児の性腺にあると、中性の子供が生まれる。片方に睾丸組織を持ち、一方に卵巣を備えている異常な中性者の多くは、女性として育てられることが多い。

この過程の極端な場合には、細胞の分布において、Y染色体をもつ細胞があっても、胎児の性腺には不在である場合がある。ページ博士と彼の助手たちは、典型的なターナー症候群に見られるような女性的な5人の男性患者を発見した。その患者たちは、その血液細胞の中にY染色体が含まれていることでページ博士が注目した。彼らは肝心な胎児性腺に必要なY染色体が欠如していたのである。


ターナー症候群の女性の75パーセントは、単一X染色体を母から受け継いだものだった。ページ博士は「彼女らが女性である以上、誰もが父親からXをもらわなかったと考える。だが実際には父親のYを受け継がなかっただけなのだ」と言う。

複合Y染色体にある二つの中心球の距離が、女性化の程度と符号するということは「自然の不可思議な摂理」ページ博士は言う。30年近くもY染色体の研究をしているにも拘らず、博士にとって今でも常に驚きの発見の連続が続いて「私はYから異常な現象が見られる無限に豊かな国立公園として考え、未だに失望したことはない」と語った。


アメリカン・ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティック(American Journal of Human Genetics)の編集者、シンシア・モートン博士(Dr. Cynthia Morton)は、ターナー症候群に関する新説は信頼に値するとして「ディヴィッド・ページの遺伝科学への素晴らしい貢献」と絶賛している。

微妙な過失
左の図:性を決定づける染色体:女子は二つのX染色体から成り、男子はXとY染色体の一対から成る。永い間、Y染色体は別のYと対になっていないため、正しく複製できないと考えられていた。
中の図:複製の過程での過失:細胞の分裂の際に過失や変形が起こる。Yと他の染色体が複製され、それぞれの中心球によって分裂したそれぞれの半分に誘導される。
右の図:自ら矯正:Y染色体は8ツのDNAがつながっていて、反転しても変わらない回文順列に並んでいる。この『回文』なる反転可能の順列は、折りたたまれてお互いに組み合い、DNAが過失や変形を比較して矯正できるようになる。

左の図:不調和:だが、もし回文のY染色体が、その複製と組み合わさると、複製はYに融合して(図の左から右へのように)両端があり中心球が二つになってしまう。それで融合点から先の遺伝子を失うことになる。
中の図:遺伝子の欠如:もし二つの中心球が接近していると、双端のY染色体が複製され、分裂して半分ずつになり、それぞれが半分になった細胞に引込まれる。二つになった細胞はそれぞれが不完全な遺伝子を受けることになる。
右の図:Y染色体の欠如:しかし、分かれた中心球の位置が離れていると、双端のY染色体は細胞分裂によって裂けて破壊されることがある。欠損または不完全なY染色体は、性を異常にする原因となる。

0 件のコメント: