2010年3月23日火曜日

マグロ喰いたし、絶滅避けたし

[はじめに:私は極く平均的な日本人です。幼い頃から魚介類を中心とした食生活で育ち、当然のようにマグロやアジのスシを好んで食べ成長しました。それから半世紀、特に気にも止めていなかった自然界に様々な変化が起こり、環境問題が深刻に討議されるようになった今日この頃、大洋の生物も例外なく多大な影響を受け、その存続が危ぶまれています。

2009年11月9日付けのニューヨーク・タイムズ紙は社説で、東部大西洋や地中海におけるクロマグロ(bluefin tuna)の危機を訴え、今の内に対処しないとマグロの絶滅は必至だから、その保護のためには各国政治家の協力が必要だと呼びかけています。
同月21日には、再び同社の社説で、その前の週にブラジルで会合したマグロの漁獲制限に関する国際委員の提案が否決されたことを憂慮しています。それは、従来の漁獲制限2.2万トンから、2010年には1.35トンに制限することを裁決はしたが、その量は海洋生物学者達が提案した数字を遥かに上回っていたもので、その数に密猟、密輸を加えたら、クロマグロの絶滅は必至で、今全面的な禁漁にして存続可能な数まで復活させてから漁獲を再開するという手段が必要だと主張しています。

そして今年、去る3月19日、クロマグロ輸出入禁止案が国際会議で否決されました。提案した国々と、反対した国々では完全に相反する事情があることは理解できます。でも、理解は理解として確実な将来、、、今のままでは、我々の世代はマグロで舌づつみを打てるでしょうが、次の世代にはマグロは過去の遺物になってしまうでしょう。
私には、次世代にマグロの味を堪能させるために、今マグロ食を控える覚悟は充分にあります。

以下は、輸出入禁止案に反対した日本と、輸出入禁止案を提案したアメリカの報道記事です。どちらに同意するかは読者の良識にお任せいたします。編集;高橋 経]
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毎日新聞3月20日付け(原文のまま)
クロマグロ:禁輸否決…日本、情報戦に勝利

大西洋(地中海を含む)クロマグロ(bluefin tuna)国際取引禁止案は、ワシントン条約締約国会議の第1委員会で圧倒的な反対多数で否決された。日本は劣勢とみられ たが、ふたを開けてみれば賛成票は可決に必要な有効票の3分の2に遠く及ばず、欧米メディアも「日本の明らかな勝利」と評価。予想を覆す結果は日本の周到 な根回しに加え、自国産業への打撃を懸念する途上国の動きや陰の主役中国の影響力があった。  

「意見が出尽くしたのなら、直ちに採決すべきだ。」カタール・ドーハ(Doha)で18日午後(日本時間同日夜)に開かれた第1委員会。各国の意見表明が一巡 したところで、マグロの蓄養が盛んなリビア代表
(Libya)が即時採決を求める動議を提出した。スーダン(Sudan)も同調し、採決の結果、賛成が72票と反対の53票を上回っ た。

「5票以内ぐらいの差で決まる。」5日の会見で赤松広隆農相は情勢の厳しさを強調した。欧州連合(EU)加盟27カ国が禁輸賛成で足並みをそろえ ることが確実視されていたためだ。ケニア(Kenya)などアフリカ23カ国も水面下で、EU「象牙禁輸延長を支持すればクロマグロ禁輸に賛成する」と持ちかけてお り、否決に必要とみられる50票の確保は難しい情勢だった。


水産庁は2月ごろから、OBら6人を政府顧問としてアフリカなど途上国を中心に派遣、多数派工作を展開した。しかし、顧問の一人は2月下旬、毎日新聞の取材に「漁業当局の人間は理解してくれても、それが政府全体の意見ではないことも多い」と漏らした。水産庁幹部は「終盤までもつれる」と長期戦を念頭に準備を進めていた。


だが、サメ類の規制強化に関する議案が16日、日本やロシア、中東諸国などの反対により大差で否決されたことをきっかけに代表団は「この勢いなら マグロ禁輸の否決も可能」との判断を強める。20日過ぎに米国が大型代表団を送り込み、多数派工作を始めるとの情報もキャッチすると、赤松農相「おれが 責任を取る。勝てるなら一気にやれ」と指示した。


リビア
動議の採択後、EU案、モナコ(Monaco)が採決され、いずれも否決。モナコ案の投票総数は118で、反対した68カ国にはアフリカ諸国が目立った。 一方、賛成票はEU加盟国数を下回り、棄権30カ国の多くが欧州諸国であることをうかがわせた。米国の多数派工作が成功し、アフリカ諸国などが賛成に回っ ていれば、禁輸が採択されかねない「薄氷の勝利」だった。

採決の動議を提出したリビアなどに加え、同じアジアのマグロ漁業国である中国や韓国の存在も大きかった。特に中国は原油や鉱物など資源確保のた め、アフリカを徹底支援。赤松農相は16日の会見で「中国も他の国に働きかけてくれている」と述べた。【行友弥、ブリュッセル福島良典】
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3月19日付け、ニューヨク・タイムズ紙、社説
(日本の) 漁業工策、再び勝つ

昨日はクロマグロにとって厄災の日だった。

ドーラで開かれた、ワシントン条約締約国会議において、モナコアメリカ合衆国から提案された絶滅の危機にあるクロマグロを主にする魚類の国際取引禁止案は、落胆の極みともいうべき不均衡な投票率で否決された。この禁止案は以前にも大差で否決されている。国際的に絶滅の危機が迫っている生物の中で上位にあるクロマグロの輸出入に関する欧州勢の穏やかな行動で、禁止案の裁決はすでに一年も遅延してしまった。

投票は、発展国と発展途上国との間に引かれた線で二分された。だが、間違いなく、否決の票が上回った陰には、日本の飽くなき工策による根回しが大きく働いた。日本人は世界が消費するクロマグロの80パーセントを消化しているため、チュニジア
(Tunisia)のような貧困国から、常時マグロを供給させて需要を満たさねばならない。

禁止案の内容では、日本が自国の領海内でマグロを捕獲する限りにおいて、何らの制限をつけてはいない。だが日本国内の需要を満たすためには、チュニジアや、他のアフリカの国々を通して、東部大西洋地中海で捕獲されるマグロを不法に輸入する必要がある。


消費者の需要に応じて商業価値の高い
生きの良いマグロを、従来通りに供給を確保し続けていたのでは、マグロが遠からず海洋から姿を消してしまうことに目覚め、資源保護のために乱獲を慎むべきである。

残存するマグロの数は既に著しく減少している。1957年から2007年までの50年間に、70パーセント以上が消滅した。2000年からの10年間には60パーセントが捕獲されてしまった。こうした恐るべき事実は、ことマグロ、サメ、サケ、などの種族保存に関する限り、商業価値を優先する人々には馬の耳に念仏でしかないらしい。

次の国際会議の委員たちの総会は、30ヶ月先まで開かれない。そして、大西洋クロマグロの種族保存や生存可能な数まで増加させる努力をする責任は、全て国際会議の委員たちの肩にかかっている。

前回、ブラジルでの委員の総会では、、、それまで何年もの間、乱獲を阻止することができなかった、、、ある程度の捕獲制限が合意に達したが、委員会の生物学者達が提唱する捕獲の一時停止とはほど遠いものでしかなかった。委員会は来る11月に会合する。日本側は、新しく設定される捕獲量を受け入れるだろうが、他の方策で種族の減少を否認するであろう。

我々は、それを指をくわえて見過ごすわけにはいかない。

2 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

毎日新聞の見出しにある『勝利』とい言葉に抵抗を禁じられない。同社あるいは同社の記者は、中庸を守るべき新聞人の立場を忘れたのではなかろうか。マグロ、クジラ等で成り立っている、水産業界、魚類販売店、そして日本はおろか、世界中のスシ料理店、にとって、マグロの禁輸は死活問題だろうが、マグロが絶滅したら全てが終わりになるということに気が付かないのだろうか?それとも、自分等の世代さえ良ければ、次世代はどうなっても構わないというのだろうか?

JA Circle さんのコメント...

鳩山政権が今年の予算案を発表した。税収37兆円に対して一般会計総額は92兆円、小学生の計算能力でも55兆円の借金と判る。誰にツケが廻る?我々の子孫であある。
日本の指導者は、マグロを食べたいだけ食べて、絶滅したら「我々の知ったことか」で済ませるに違いない。無責任時代!