志知 均(しち ひとし)
2010年1月3日
2010年1月3日
● 日本のいくつかの新聞(朝日、読売、毎日)は論調に相違はあるがいずれも日米同盟の重要さを強調している。朝日新聞はオバマ大統領が東京で『日本の奇跡』を語り、日米同盟はアメリカのアジア地域への関与を可能にしたと述べたことにふれ、日米安保条約と憲法9条が日本国民に安心感をあたえてきたことを指摘する。しかし、日本はアメリカに基地の提供とその維持のための財政支援をしているから日本が米国防衛の義務を負わなくてもよいという。だから同盟を維持する上で『対米追随』か『日米対等』かの言葉のぶつけ合いは意味がないと結ぶ。
● 読売新聞は、日米同盟は日本の安全保障の生命線と述べ、鳩山首相の対米対策(米国依存を改め,対等な関係を目指すためには自主防衛力の抜本的強化が必須)を支持する。防衛力が大きくなると景気対策や社会保障予算が圧迫されるし、軍事強化に対する周辺諸国の懸念も高まるであろうが仕方がない。読売新聞が、中国との戦略的互恵関係を強化する以上にアメリカとの関係強化が不可欠だと特に強調しているのは興味深い。
● 毎日新聞の社説は歴史的観点から現状をみようとする。1300年前、大和朝廷は百済救援のために数万の兵を朝鮮半島に送り、白村江で大敗し国難を招いた。唐、新羅の連合軍の襲来を恐れて国土防衛をはかり、律令国家制度をととのえ、平城[奈良]遷都を行う。この時代は大きな危機を克服して国の再建を果たした時代だった。奈良へはインド、唐、ベトナムなど各国の僧が訪れ、アジア文化の集積地として大きな『発信力』を持っていた。現在の日本は経済沈滞で関心は内向き、国際的発信力は弱まっている。それを高めるためには外交の基軸である日米同盟の深化が必要なことを強調する。
★ 一方、アメリカの新聞(NYタイムズ、ボストン・グローブ、ワシントン・ポスト、シカゴ・トリビューン、ロサンゼルス・タイムス)の年頭社説で日米同盟に触れているものは一つもない。ロサンゼルス・タイムズは毎年元旦に次の一年に起きてほしいことのリストを発表するが、普天間基地問題が早急に解決して日米関係が改善されるのを望むという項目はリストにない。
★ また、ワシントン・ポストの社説は、毎日新聞の社説のように歴史をさかのぼって前世紀のはじめに南北戦争で生まれ変わった『新国家』がその後急速に進歩発展し、世界一強くて裕福な国になり、第二次大戦後には対外援助、自由貿易、人権、民主主義を推進して世界をリードしてきたことを強調する。しかし現在の経済低迷、自然資源の制限、反テロ戦争の行き詰まりなどをみると、アメリカの理念を今後も維持できるだろうかと懸念している。日米関係については何も言及していない。
★● 日米関係に関する関心の落差が両国のジャーナリズムでこんなに大きいのには驚かされる。一般のアメリカ人の対日感情は悪くないので日米関係を軽視しているとは思えない。しかし第二次大戦を経験している年配の友人、知人の本音は複雑である。すこし厳しい内容だが書いてみると、
- 日本は本当に信頼できるか?(宣戦布告前に始めた真珠湾攻撃のことを忘れていない)
- 日本は憲法9条をたてにとって国の安全保障はアメリカ依存で安心しているが、どうして自分の国は自分で守るように憲法を改正しないのか?
- 日本が同盟で軍事的コミットをしないのであれば、アメリカが攻撃された時ぜんぜん頼りにならないのではないか?
- 将来、中国とアメリカの間で共存共栄の条約ができれば日本の重要性は小さくなるので日米同盟の内容も見直したらどうか?
- 鳩山首相が言うようにアメリカとの同盟を保ちつつ防衛力、軍事力を強化する。そのためには憲法改正も辞さない。
- いざという場合、同盟国の義務としてアメリカの防衛に軍事参加する。
- 日本はアメリカの歴史に記録されるようなかたちでもっとアメリカ社会に『浸透』する必要がある。アメリカは多民族の集まりでできている国だが日本の『浸透率』はきわめて低い。そもそもアメリカはイギリス王室との戦いから生まれた国だからイギリス[広くアングロサクソン]の浸透率が高いのはいうまでもない。新大陸を発見したコロンブス(Columbus)も、アメリカという名前の由来である探検家アメリゴ・ベスプッチ(Amerigo Vespucci)もイタリア人。フランスはベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)の要請でマルキス・ド・ラファイエット(Marquis de Lafayette)が率いる軍隊をジョージ・ワシントン(George Washington)のもとに送り、ヨークタウン(Yorktown)の戦いでイギリス軍を破ってアメリカ独立に貢献している。中国人はアメリカ横断鉄道の建設に従事している。前世紀のアメリカ宇宙士の月着陸はドイツのロケット科学者の協力なしには実現しなかった。第二次大戦末期にイタリア戦線で活躍した二世部隊の功績は日本人の功績ではなく日系アメリカ人の功績として評価されている。湾岸戦争の時にもし日本が軍隊を送ってめざましい戦果をあげていたとすれば日本の功績は大いに評価されたであろうがチャンスを失した。
2 件のコメント:
前掲のコメントを訂正したかったのですが編集ができないので削除し書き直しました。改めて、、、。
全般的に賛成です。しかし、日本が軍事的にアメリカに協力することは、日米関係を強化するのに役立つとは思いますが、反対です。理由を説明するには多くの言葉が必要になりますので、結論だけ申します。いかなる国でも(テロリストも含めて)、いかなる理由でも、暴力で事を解決すべきではありません。戦争はお互いの憎しみを増幅させるに過ぎません。「火中の栗を拾う」とはそういう見地からの例えです。
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