志知 均(しち ひとし)
2011年6月
2011年6月

もしリポーターが「それでは、一つだけ薬を持っていけるとしたら?」と質問したらどう答えただろうか興味があった。私がその宇宙飛行士なら躊躇なくアスピリンと答える。その理由はアスピリンは死因の一位のガンと、二位の心臓病の両方を予防してくれるからである。

この粉薬の有効成分は、1828年ヨハン・ブッフナー(Johan Buchner)がサリシン(Salicin)を純粋な物質として分離するまで判らなかった。1899


この作用機構の解明から、それまで『古い解熱、鎮痛剤』としてしかみられていなかったアスピリンはPGやTXが関与するいろいろな病気の治療に有効なことがわかって一躍『新薬』として注目されはじめた。アスピリンがガンや心臓病を予防するのは、当然、PGやTXの合成を抑えるからである。
少し話しが難しくなるが、以下できるだけ簡単に説明しよう。
まず心臓病。心臓病の主な原因のひとつは動脈血管がつまって心臓筋肉に血液が酸素や栄養分を十分供給できなくなることである。心臓血管がつまるのはコレステロールがぎっしり蓄積するからだと考えるひとがあるが正しくない。庭で水を撒くホースを長年使っていると柔軟性がなくなり、内側に傷ができ水垢がたまるように、血管壁も長い年月の間に(喫煙、薬、高血圧などが原因で)『消耗』し、そこへコレステロールやグリセライドや免疫細胞の残骸などがたまってプラク(Plaque)ができる。その結果血管の内部は少しずつ細くなるが、それだけでは心不全は起きない。何かの原因で大きくなったプラクに『傷』ができ血液細胞の一種の血小板(Platelets)が付着すると大変なことになる。付着した血小板は更に仲間の血小板をよびよせ大きな塊になり血流を止めてしまう(心筋梗塞)。(同じような過程で脳血管がつまれば脳卒中。)
血小板の凝集を促進するのがスロンボキセン A2でアスピリンはそれを合成するCOXを不可逆的に阻害して血小板凝集を阻止し、心筋梗塞を防いでくれる。われわれの身体には血小板の凝集をふせぐ因子プロスタサイクリン(Prostacyclin)などや凝集体を分解する因子(Plasmin)などがある。アスピリンはこれらの因子の作用を補佐するといえる。アスピリン以外の非ステロイド性の薬(アセトアミノフェン、アイビュプロフェンなど)もCOXを阻害するが可逆的阻害なので効果が低い。

例えば、組織に病原菌が感染すると、細胞はそれを感知して免疫防御遺伝子の発現をうながす因子(NF-kB, STAT3など)を活性化するが、これらの因子は血管増殖やガン細胞の生長をうながす遺伝子も活性化する。そのひとつがCOX酵素の遺伝子でCOXが合成するプロスタグランデインE2は血管を拡大し免疫細胞が血管から組織に出るのを助ける、即ち炎症を助長する。これらの免疫細胞はガン細胞の増殖を促進する環境をつくる。
このようにガンと炎症が密接な関係にあるのなら、抗炎症剤がガンの予防に役立つことを示す証拠があるだろうか?
最近発表されたデータによれば、アスピリンを7年半以上のんでいる人はガンで死亡する確率がのまない人より30%低い。消化系のガンにつては確率はさらに低くなる。60才以上のシニアの場合、ガン防止(および心筋梗塞防止)のためには毎日ベビー・アスピリン(81 mg)を一錠のむだけで十分のようだ。ただし、アスピリンにアレルギーのある人や胃潰瘍のある人、抗血液凝集剤(クマデンなど)をのんでいる人にはすすめられない。
またテイーンエージャーや幼児は、脳や肝臓に障害が起きるライ氏病(Reys’s syndrome)になることがあるから要注意。
ジョセリト・アスピリン(Joselito Aspirin)という人に次のような詩がある。
昼も夜も漆黒に塗られた
深いしじまの中に
疫病から逃れた魂がある
死が絶対とどかないところに
In the heart of the deepest silence
Where days and nights all colored black
Lay the souls escaped from pestilence
Never will death trace their tracks

1 件のコメント:
我が意を得たり。私は薬嫌いですが、アスピリンだけは別で、常備薬にしています。
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