追悼:ピーター・フォーク(Peter Falk)
「刑事コロンボ」に犯人が捕まらない話がある。往年の大女優が再起をかけて夫を殺すが、脳の病で犯行を覚えていない。しかも余命は数カ月。これを知った 親友の演出家が自ら身代わりになる。コロンボはうその自白を戒めつつ、「数カ月は持ちこたえてみせる」の言葉にうなずいた▼そんな泣かせる結末や鮮やかな アリバイ崩しが、浮かんでは消える。敏腕刑事を温かく演じたピーター・フォーク氏が83歳で亡くなった。(6月23日夜半) 晩年は認知症だったが、ファンはその姿を忘れまい ▼30を前に公務員から転身、40過ぎに生涯のはまり役を得た。無精ひげ、ボサボサの髪はメーク不要。「車にレインコートにわたしのこのツラ、これだけそろってりゃ十分だ」と自伝(田中雅子訳、東邦出版)にある▼渥美清さん以外の寅さんがいないように、コロンボは氏と、日本では小池朝雄さんの声を併せて完成した。対する犯人役には男女とも大物が使われ、よんどころない事情で殺人に走る成功者たちを、時に切なく演じた▼犯人との知恵比べとは別に、ひそかな楽しみがあった。よれよれのコートの陰から、米国の上流社会をのぞき見る愉悦だ。コロンボが「名ガイド」たりえたのは、俳優の憎めない個性ゆえだろう▼「シャーロック・ホームズのB面」という能書きがお気に入りだったという。以後、「コロンボのB面」とでも呼ぶべき刑事ドラマが各国に生まれた。恐らくは 満足の口笛を吹きながら、ボートをこいで霧の海に去る名優が見える。
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思い出の名場面
(以下は、ニューヨーク・タイムズ6月24日付けから抜粋)
ロサンゼルス警察の警部補コロンボ役で、ピーター・フォークは従来の典型を破り、一見頼りないコミカルなタイプで視聴者を魅了した。上の写真はオスカー・ワーナー(Oskar Werner:右)が演ずるハイテクの天才が企んだ完全犯罪と対決する一場面。
『私に完全殺人をさせて(Make Me a Perfect Murder)』と題する映画。テレビ局幹部の殺人事件で、その愛人を演ずるトリシュ・ヴァン・ドヴィア(Trish Van Devere:右)と会話を交わすコロンボ警部補。
親友ジョン・カサヴェッツ(John Cassavetes:左)と協同で1970年に製作した映画『夫たち(Husbands)』の一場面。フォークの右はベン・ガザーラだと思われる。
カサヴェッツ(左)が主演、監督した『酔いどれ婦人(A Woman Under the Influence)』は、精神障害によるある結婚生活を掘り下げた話。重要な脇役をフォークが務めた。上の場面には出ていないが、カサヴェッツの妻役を演じたジーナ・ロウランズ(Gena Rowlands)はアカデミー賞の候補に上った。
後年、フォークは記憶に残る数本の映画に出演した。これはその一つ、1979年製作の『義理の親族たち(The In-Laws)』。アラン・アーキン(Alan Arkin:右)と共演したドタバタ活劇。
『お姫さま新婦(The Princess Bride)』でフレッド・サヴェジ(Fred Savage:左)の祖父役を演じた。
2002年、ニューヨーク市のロックフェラー・センターで催されたNBC放送局の75周年記念行事に出席したピーター・フォーク。
フォークの遺族は、妻のシェラ・ダニーズ(旧姓:Shera Danese)と二人の娘ジャッキー(Jackie)とキャサリン(Catherine)。
1 件のコメント:
認知症(altzheimer)とは、悲しい病です。最近、認知症で数年来病んでいた私どもの友人が亡くなりました。彼女の笑顔が忘れられません。
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