健康度を図る「快眠」、「快食」、「快便」
志知 均(しち ひとし)
2011年2月
2011年2月
ギリシャ神話の女神エオス(Eos)は若者チソヌス(Tithonus)に恋をした。エオスは人間のチソヌスが自分と同じように永遠の命が得られるようにゼウス(Zeus)に願い出た。その願いがかなって二人は幸せな歳月を過ごしたが、そのうちにチソヌスは年老い病気になりみにくくなってしまったが死ぬこともできなかった。エオスはゼウスにチソヌスが老いないように頼むことを忘れたから! (右の写真は、古代ギリシャの壷に描かれたチソヌスを追うエオス)
永遠の命はなくとも、老後まで健康な人生を送りたいと願うのは誰しも同じである。40歳台になるまでは事故死が多いが、50歳台ではガンや内臓の病気で死ぬことが増え,65歳以上になると死因は第一に心臓病,次がガン、脳卒中、呼吸系疾患と続く。
死因とならないまでも、アルツハイマー氏病(または認知症:Alzheimer’s disease)やパーキンソン氏病(Parkinson’s disease)などの脳神経系疾患は人格の崩壊をもたらす。このような病気になるかならないかは20%が遺伝子、80%が生活態度(life style)や環境因子できまるといわれる。
健康によい生活態度の第一にあげられるのが口に入るものへの注意、即ち禁煙、節酒、低脂肪で繊維性の健康食やビタミン剤その他の栄養補助剤などへの対応の仕方。第二に適宜の運動。第三にパズルなどによる頭の体操。これらすべてを生活態度に取り入れても個人差があるから健康でいられるとは限らない。たとえ医者の定期健診を受けているとしても自分の身体のことは自分で責任をもつことが大切である。
そこで健康度の尺度として三つのことに注意するのをおすすめする。即ち「快眠、快食、快便」の生活をしているかどうか?
快眠
われわれの身体は明暗リズム(12時間明・12時間暗のリズム、circadian rhythm)に支配されているから、このリズムから外れないため毎日決まった時間に就寝し決まった時間に起床するのが快眠につながるが、なかなか実行されないのは残念だ。睡眠は身体の休息のために不可欠である。
特に目覚めている間に酷使する頭脳の『整理と調整(リセット)』のために必要である。睡眠は眼球が早く動くREM (rapid eye movement)段階と熟睡(deep sleep)段階に大別される。夜眠っている間にはREM/熟睡のサイクルが4-5回繰り返される。REMは目覚めている間に脳の海馬(hippocampus)を通して記憶として蓄えられた情報を大脳各所に分散整理する段階で、古い記憶が引き出されることもあり、夢を見る。情報の整理がある程度進むと熟睡段階に入る。悩み事や心配があると脳の扁桃(amygdala)が興奮状態を続けREMや熟睡を妨げる。
それを防ぐためには、就寝前に精神的なストレスを減らすことが大事で、生活の不安に関する議論や、テレビの暴力番組などは避けて、静かな音楽でも聴きながら「明日は明日の風が吹く」(聖書を読む人なら、一日の苦労は一日で足れり。)とくつろぐのが賢明である。
快食
睡眠中は頭脳活動が低下するのに対し、腸のはたらきは活発になる(左図の青い部分が腸)。そこで「快食」について述べよう。ひとくちで言えば「腹八分目」で消化器系にあまり負担をかけない食べ方が快食だが、消化について、特に腸と腸内細菌との関係を理解することが大切だ。腸には1,000種以上のバクテリアが共生している。
消化を助けるだけでなくビタミン合成もしてくれる『有益バクテリア』は繊維性食物を好み、病気を起こす有害バクテリアは動物脂肪や糖分の多い食物を好む。低脂肪で繊維性の食物が健康食といわれるのはそのためだ。有益なバクテリアは腸の免疫性を助けてくれる。たとえば、腸内主要細菌(Faecalibacterium prausnitzii:右の電子顕微鏡写真)は免疫抑制作用をもち腸粘膜の慢性炎症を起こすクローン氏病(Crohn’s disease)の再発を防いでくれるし、非病原性嫌気性菌(Bacteroides fragilis:左下の電子顕微鏡写真)は大腸炎(colitis)を予防してくれる。
抗生物質を経口摂取すると腸内の有益バクテリアも有害バクテリアも大打撃をうけ下痢が起きることがある。有益バクテリアが早く回復するにはプロバイオ錠剤(probiotic)を摂取するのが有効である。 快食には腹八分目と上に書いたが、腹を空にするため時々絶食(断食)するのは健康によい。絶食すると腸だけでなく、その他の内臓も『浄化』される。たとえば、絶食開始24時間以内に肝臓、膵臓、腎臓、筋肉、心臓などで自己分解(autophagy:右下の電子顕微鏡写真)が高まる。
自己分解とは細胞レベルでの浄化のことで、絶食時には栄養やエネルギー生成のため、古い細胞を自己分解させる。(食物がなくなると蛸が自分の足を食べるが自己分解と言えないことはない。)
筋肉や脂肪組織(adipose tissue)の細胞が自己分解で供出したグルコースやケトン体は肝臓を経て脳へエネルギー源として送られる。その結果、肥満の防止になる。絶食により脳でもある程度の自己分解が起きる。アルツハイマー氏病やパーキンソン氏病などでは脳神経細胞に粘性の高い凝集蛋白が付着するのが病因のひとつであるが、自己分解はそれらの蛋白の蓄積を防いでくれるようだ。
快便
廃棄物(garbage)を調べるとその家庭の生活が判るように、検便は消化器系に異状はないか、出血はないかなどを知る上で参考になる。詳しいことは(うさん臭い話になるから)省略する。
記憶違いがあるかもしれないが「寝て起きて、食べてまた寝て、また起きて、あとすることは、死ぬばかりなり」という歌がある。最後のところを「あとすることは、出すばかりなり」として、それが順調に繰り返され、頭の働きも正常であればあなたの健康度は良好であることまちがいない。
1 件のコメント:
この記事のおすすめを、私は永年(40年以上も前にタバコを止めて以来)習慣として実行し健康を管理し保っています。志知先生のおっしゃることには間違いありません。保証付きです。
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