志知 均(しち ひとし)
2011年8月
2011年8月
アメリカの失業率は9.1パーセント。一年前とほとんど変わらず、早期景気回復の見通しもよくない。連邦政府だけでなく、市民も『借金』の返済に青息吐息。日本も長期の不景気の上に、東北地震、津波の災害のダブルパンチ。それに今夏は猛暑にも拘らず節電のため冷房を十分使えず、熱中症で死者まで出ている。

ストレスとは本来、物理用語で外部からの圧力を押し戻そうとする応力のことだが、50年ほど前から生物学や心理学の分野で「外部からの刺激(ストレッサーと呼ぶ)に対する身体(心身の両方)の反応」をストレスとよぶようになった。ストレッサーは、圧力、温度などの物理的因子のほかに、身体に有害なもの(有毒物質、病原体など)や、恐怖や焦燥を起こさせる感覚的なものまで多様である。この定義によれば、「仕事でストレスがたまる」というのはよいが、「この仕事はストレスだ」というのは厳密には正しくない。仕事はストレッサーではあるがストレスではない。同じ仕事をやってもストレスがたまらない場合もあるから。
我々の身体は、血糖値や体温などすべてがバランスされた状態を保つよう調整している。この作用をホメオステーシス(homeostasis)と呼ぶ。(株の売り買いのバランスで株価がきまるのもホメオステーシスといえる。)ストレッサーがそのバランスを崩すと、身体はストレス反応を起こして新たにバランスを保とうとする。

暗闇で強盗に脅迫された場合、或いは強い地震に襲われた場合、その情報は素早く小脳の扁桃(へんとう:amygdala:右の図の赤い部分)とよばれる組織に集まる。扁桃は恐怖心や不安心に関係する組織で、ストレス反応では中心的役割を演ずる。(勿論、脳のほかの組織も関係するが話が複雑になるので省略する。)


緊迫した状況ではアドレナリンの作用が強く、慢性のストレス反応ではコーチゾルの作用が強くなる。慢性ストレスでコーチゾルやアドレナリンの濃度が高まった状態が長引くと、身体に障害がでてくる。
恐怖、焦燥が長期化し扁桃の活性化状態が続くと、副腎からのコーチゾル、アドレナリン分泌も高レベルが続き、記憶減退やうつ病(depression)をひき起こす。大脳には『快感』をもたらす神経回路(pleasure pathway)がある。身体はこの回路を刺激して気持ちが落ち込むのを防ごうとする。(酒や麻薬はこの神経回路を刺激して憂さを忘れさせてくれる。)しかし慢性ストレス反応ではこの回路にとって重要なドーパミン(dopamine)やセロトニン(serotonin)などの神経伝達物質の生成をコーチゾルが阻害するのでうつ病になる。

ここでひとつ注意したいのは、ストレス反応には大きな個人差があることである。緊急事態に遭遇しても冷静な人、それが長引いてもうつ病にならない人があるが、一方すぐにパニックに陥ったり、物事に悲観的でうつ病になりやすい人がある。この違いは環境因子と共に遺伝因子が多分に関係する。ドーパミンやセロトニンやコーチゾルの受容体に関する遺伝子や、これらの物質の合成分解にかかわる酵素の遺伝子に変異があると、ストレッサーへの反応が激しくなったりする。

天使になれない我々凡人はせいぜいうまいものを食べて、楽しい音楽でも聴いて、うつ病や胃潰瘍にならないようストレス解消するしか術がない。
1 件のコメント:
うつ病にならない人は、楽天的な性格だからだと思っていましたが、環境因子や遺伝因子によるものとは知りませんでした。
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