2010年10月13日水曜日

ハイテク版廃品回収、そして再生へ

[先日公開した『尖閣諸島エレジー』に関連した記事です。まだ読んでいない方は、下へスクロールして『尖閣諸島エレジー』を先ずお読みください。状況がより明確にご理解いただけます。文中の『希土類金属』は『希有元素』とも言います。なお、人名、地名、会社名、団体名は英訳からの復訳です。もし正しい漢字、正しい表記ををご存知でしたらお知らせください。編集から

たぶち・ひろこ
2010年10月4日、NYTに掲載

世界的な金属採掘の生産競争に追いつかず、過去20年間も廃坑となっていた小坂鉱山(秋田県)に復活のきざしが期待されている。

その期待とは銅や石炭の埋蔵ではない。
希土類金属その他、日本のハイテク産業が必要とする鉱物で、今日まで世界的需要をまかなう生産を独占している中国から輸入していた。先日来、(尖閣諸島付近で中国漁船と衝突し、その船長を拘留したことで)中国と摩擦を起し、希土類の輸出禁止に遭い、それに代替する鉱物を小坂に求めているのである。

といってもこの町の希望は、地下資源に求めることではなく、おびただしい量の
エレクトロニクス携帯電話などの廃棄物を回収し、部品に使われている貴金属とか鉱物を抽出して再利用することである。

国土開発庁の
フユシバ・テツゾウ元長官は最近、小坂の再生工場を訪問調査し「我々は携帯電話から文字通り『金塊』を発見しました」ということだ。小坂における再生意欲は、最近中国から希土類輸出を停止された日本にとって重要な開発事業と目されている。
小坂で一世紀以上にわたって鉱物を採掘をしていた同和鉱業所(Dowa Holdingsからの復訳)は再生工場を建設し、その心臓部ともいうべき高さ60メートル以上もある溶鉱炉でエレクトロニクスの廃棄部品を溶かし、貴金属を抽出している。そうした廃棄部品は国内はもとより、アメリカを含め国外からも回収されたものである。(上の写真:同和鉱業所の主溶鉱炉)

金の他にも、
同和鉱業所の傍系会社である小坂精錬会社(Kosaka Smelting and Refining:からの復訳)では、既にLCDスクリーンに使う貴金属インディアム(indium)や、半導体のシリコン薄板に使うアンチモニー(antimony)を抽出している。

更に同社は、電気モーターに使う工業用バッテリーに欠かせない希土類金属ネオジム(neodymium)や、レーザー機材に使うジスプロシウム(dysprosium)の抽出法を開発しようとしている。


天然資源に乏しい日本ではあるが、政府管轄の調査機関である国立資源科学団体(the National Institute for Materials Scienceからの復訳)では、日本で使用済みのエレクトロニクス器材には、30万トンもの希土類金属が潜在しいていると見積もっている。その量は、世界の需要93パーセントを供給できる中国が保有している量に比べたら微々たる数量ではあるが、日本が隣国の供給に依存する量を減らすのに大いに役立つことになるであろう。


希土類金属の国際取引高は、1億5千万ドルと、鉱業の水準に比べたら低い数字だが、需要の価値が上がり、中国が輸出量の制限をすることによって価格は高騰している。

中国の希土類金属の貯蔵についてはアメリカも強い関心を示している。中国では日本を除いて輸出制限はしていないが、同金属の輸出計画量はあまり余裕がなくなってきている。従って中国は年内の各国向け輸出量を従来の72パーセントに減らすと通達した。


先週、ワシントン政府でも国会議員は、希土類金属がエネルギー関連の産業や軍事機器にとって重要な資源であることを考慮し、その供給状況の調査を承認し進めている。

日本の企業は一般的に鉱物の保有量について語ることを避ける傾向がある。だが情報通に言わせると、ある企業は希土類金属を大量に保存蓄積しているとのことだ。その貯蔵量は企業によるが、ある会社は数ヶ月の生産分、また別の会社は1年の生産分を確保しているとのことだ。先日、オバタ貿易長官は、政府は貿易を停滞させないために希土類金属の備蓄を考慮していると表明した。


代替案も続出している。世界中にちらほらと散在する半ば見捨てられた鉱山が見直され始めている。アメリカではカリフォルニア州マウンテン・パス(Mountain Pass)のモリィコープ(Molycorp)など、その他の国では、南アフリカ、オーストラリア、カナダ、などが検討、調査が進められ、日本の貿易商社ソウジツ(Sojitz)はヴェトナムの鉱山と採掘権を、住友商事はカザクスタンの政府と、それぞれ交渉を進めている。


また、日本の製造企業では希土類金属を必要としない製品の生産の開発を推進している。先週、政府関連の機関である新エネルギーと工業技術開発協会(New Energy and Industrial Technology Development Organization, or N.E.D.O.から復訳)は、ハイブリッド車のモーターに、従来の希土類金属でなく、安価な冶金マグネットが代替できると発表した。


一方、日立金属では、銅の合金を利用し、希土類金属を最小限に使う研究を進めている。


「日本の製造業者たちは、部品の重要な個所に使う金属を、中国からの供給に依存していたことの危険性を痛感したはずです」
と言うのは、東京、丸紅の調査機関のシバタ・アキオ営業部長である。彼は、日本の産業が希土類金属に替わる鉱物を開発したり、廃棄部品を回収して再生することによって恩恵を受けるであろう。そのよい例として、1970年代のオイル・ショックのお蔭で、日本の自動車産業が世界に先駆けて燃費効率が優れた車を生産することに成功した、と付け加えた。

日本では、数社が希土類金属のリサイクルを試みている。日立では廃棄されたコンピューターのハード・ドライブマグネットから希土類金属を抽出する実験を始めたが、実用に供するには2013年までかかるようだ。

だが、1884年以来小坂で採鉱を続けてきた同和鉱業所はこの分野での草分けである。坑道には雑草が生い茂り、トロッコの鉄路は錆び、且つて鉱夫が地下でつけた垢を洗い流した風呂場は廃屋となっていた。この6千人そこそこの小さな町に再起の機会が訪れたのは時期尚早ではなかろう。


鉱山としての採掘は、円高となり、国際的な競争力が弱くなったので1990年で業務を打ち切った。今日、古いレンガ建ての原鉱物処理工場の一部は、2年前から同和鉱業所再生工場として運営している。


「今の日本にとっては、廃坑を再検討して復活させることが急務です」
と力説するのは、国立資源科学団体のハラダ・コウメイ管理部長で、小坂で運営されているような再生産業を熱心に支持し援助している。希土類や地下資源は別として、ハラダ氏によると、概算6千8百トンの金が日本全国のエレクトロニックスに使われていて、その量は世界中に貯蔵されている金の16パーセントにも及ぶ、とのことだ。


彼は「日本の経済は、世界中の資源を集めることによって成長します。そしてその資源の大半は何らかの形で我々が所有しているのです」と言う。

こうした再生処理は費用がかさみ、技術的に難しい工程があるが、完成させねばならない。

同和鉱業所の工場では、コンピューターのチップやその他重要なエレクトロニクスの部品を2センチ四方に断裁し、その上で鉱物を抽出する前に摂氏1400度の溶鉱炉で溶かされる。その工程で一日300トンの資材が消化されるが、1トンにつき150グラムの希土類金属しか抽出できない。(右の写真:サックに回収されたマザーボード)

同和鉱業所ではその再生作業の運営にどれほどの費用がかかるかを明らかにしていないが、こうした効率の低い工程でも採算がとれている、とのことだ。全般的に同和鉱業所が工業用金属やエレクトロニクスの資材を再生することで得る実益は、去る6月30日四半期の決算で前期の3倍、65億2千万円(7千820万ドル)と、国際的な産業復興を成し遂げた。

同和鉱業所希土類金属に注目し始めた際、先決問題は強力なマグネットに使うネオジム(neodymium)の抽出法を開発することにあると目標を定めた。一例として、ネオジムは微小ながら携帯電話のスピーカー部品に使われている。
同和鉱業所の再生工場のセキヤ・ウタロウ部長は、その金属を実用に充分なだけ抽出することが当面の課題だと語る。(左の写真:同和鉱業所のセキヤ・ウタロウ部長が、マザーボードを溶解する前に検査中)

同和鉱業所にとっての難関は、再生用のエレクトロニクス部品が、世界中から調達しようとしても充分に回収できなくなりつつあることにある。それは、アメリカも含めて各国が、廃棄する器材から素材を回収することに目覚め始めたからである。中国は既に中古品コンピューターの基板(マザーボード)やその他の関連部品が国外に流出することを禁止してしまった。

同和鉱業所セキヤ部長「日本人がもっと希土類の再生に関心を持ってくれたらと思います。もし我々がこの分野で先駆者になれたら、中国が我々の技術を買いにくるに違いありません」と断言した。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

廃品回収、再生、すばらしいことです。石油をはじめ、天然資源が無限だと思ったていら世界は破滅します。その埋蔵地が片寄っているのが不公平ですが、今更何ともしようがありません。せめて手許の『物』を大切にしましょう。