志知 均 (しち ひとし)
2010年10月
2010年10月



心理学者はそれらの記憶を(working memory: 役に立つ記憶)と呼んでいる。道端に落ちているゴミの記憶はすぐに忘れるが道路工事をしている記憶は残っている。それは、そこを後日通る時に役に立つ記憶だからworking memoryである。
自己認識できる動物は、できない動物より一段と進化しているといえるが、無尾猿とヒトでは遺伝子がほぼ99%同じであるにもかかわらず、自己だけでなく自然界を認識する能力に雲泥の差がある。その違いは、ヒトの場合、少数の遺伝子の突然変異のおかげで手首や指を器用に動かすことができるようになったり、顔の筋肉を早く動かせるようになったことだけでは説明できない。遺伝子変化よりも頭脳のはたらき、すなわち膨大なworking memoryを集積し分析する能力を獲得したからだと考えられている。
しかしその能力は突然得られたものではなく、ヒトが無尾猿と分かれた600万年前から漸次『進化』した結果である。知能とは『問題を解決する能力』のことであるが、ヒトの遠い先祖の古代人が氷河時代のように種の存続の危機に直面した場合、working memoryを最大限に使っ


そのようにworking memoryに支えられて知能が進歩したことは、世界各地で発掘された古代人の遺物(道具や装飾品など)を古代史別に比較することにより明らかにされた。考古学者は、更に重要なこととして、集団の人口がある程度以上に大きくなく、集団のメンバーが協力しなくなったら、知能の進歩は遅れ、集団そのものも滅亡したであろうと指摘する。ホモ・フロレシエンシス人(Homo Floresiensis:左の想像図:右上の写真:左の同人類と現代人の頭蓋骨を比較)やネアンデルタール人(Homo Neanderthal:右下の想像図と左下の頭蓋骨)が20,000~30,000年前に絶滅したのはその例であるようだ。


この小説の主人公は液体窒素を顔に浴びてケロイドになり、自分の顔を失ってしまう。その結果、妻の心も離れていく。主人公は仮面をかぶって『他人の顔』になり街で妻を誘惑する。誘惑にのった妻と情事を重ねるが、実は妻は相手が仮面をかぶった夫であることを見抜いていた。
この主人公のようにケロイドで自分の顔を失はなくても、年齢を重ねれば誰しも若い頃の顔を失っていく。毎日、鏡の中の自分を詳しく観察する女性は、年令による顔の変化を化粧や、時には整形手術によって隠し、年令と共に変っていく顔の自己認識はしっかりもっている。それに対し、男性は、ヒゲを剃ったり、髪をといたりする時にちょっと鏡を見る程度だから、自分の顔の変化に無頓着なことが多い。精力的に仕事をしている時期は特にそうである。しかし、定年退職して第二の人生が始まると、それまで鍵をかけておいた『玉手箱』を開く日が遅かれ早かれやってくる。(下の写真はマーク・ハウザーの『鏡イメージ』)

貴方は今日、鏡の中の自分を見つめてみましたか?
1 件のコメント:
東洋的に言うと『己を知る』でしょうか?
容易なことではありません。いくつになっても、、、。
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