アラン灰田
2010年10月4日、ホノルル発
2010年10月4日、ホノルル発
スプートニック第一号(Sputnik-1 )
今から53年前の今日、1957年(昭和32年)10月4日、ソ連(ロシア)が人類最初の人工衛星スプートニック第一号を打ち上げて軌道に乗せ、世界歴史の『宇宙時代』が始まった。アメリカとソ連の冷戦時代がまだ尾を引いていた頃のこと、ソ連に遅れをとったアメリカの屈辱感は想像に余りあるものがあったようだ。
その3年後、大統領に就任したジョンF.ケネデイ(John F. Kennedy)が演説の中で「アメリカは近い将来、人間を月に送る」と宣言し、それが1969年の8月に実現した。生憎、当のケネディは1963年に暗殺され、その歓びを彼自身が体験することはできなかったが、やっと、アメリカは名誉を挽回した。
話は逸れたが、私は当時慶応大の学生だった。『人工衛星』などとは普段の我々の生活で実感が伴わなかったが、時々上空の彼方に小さな光の点が横切るのを見て感銘を受けていたのは事実だった。あの日、放課後の夕方、友人と人混みで一杯の新宿の繁華街をブラついていた。スプートニックのことが脳裏に浮かび、私はふと生来の悪戯っ気が起きた。
まず空を見上げ、立ち止まり、上空を指差し「あれっ!スプートニックだっ!」と絶叫した。
周囲にいた歩行者たちは立ち止まり「どこだ!どこだ!」皆、頭を上に向けて薄暗い夜空を見上げ、キョロキョロし始めた。その数人の動きが波紋となり、歩道八方の果てに至る雑踏まで広がっていった。そんな状態になると、群衆は私の存在などすっかり忘れ去っていた。それを幸いに、私は友人と二人、群衆から逃れ出て大笑いしたものだ。でもその時、スプートニックは実際に、上空を横切っていたかも知れない。
その数年後、1960年代、私はハワイ大学に在籍していた。授業よりも波乗りに熱中していたが、スプートニックのイメージが強烈に頭の中に残っていて、或る日それをスケッチしてみた。『いたずら描き』程度のものであまり自慢にはならないが、何故か捨てられず未だに手許に保存してあったので敢えて公表する。
最近、その『いたずら描き』をグラフィック・デザイナーの友人に見せたら、妙に感心して『星の王子さま』の著者が描いた挿絵の感覚にそっくりの夢がある、と言ってくれた。
『星の王子さま』
『星の王子さま(仏: Le Petit Prince 英: The Little Prince)』は、フランス人の航空家、小説家、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ(Antoine de Saint-Exupéry)の創作で、1943年(昭和18年)に出版されて以来、世界各国語に翻訳され、今日までに8千万部も売れたベストセラーである。日本語訳でも6百万部を下らないであろう。
話の概略は、航空家の『ぼく』が砂漠に不時着し、そこで小惑星からきた『王子さま』に出会う所から始まる。『王子さま』は『ぼく』が知らない星の世界の話をする。その話は奇妙な事象に満ち満ち『ぼく』を忽ち魅了した。『王子さま』の話は、たくましい想像の世界から、現実の世界の社会批評や風刺まで豊かに綴られ、読者を巧みに夢の世界に導いていく。
『王子』の話の一つにバオバブ(baobab:左のイラスト)の樹の話がある。『王子』が来た惑星は一軒の家ほどの大きさでしかない。そんな小さな星に火山が3つもあり、3本のバオバブの樹がある。バオバブは成長するに従って根が張って惑星を裂いてしまう。
私が『星の王子さま』の本と出会ったのはスプートニック騒ぎのずっと後、1960年代だった。だから、私の『いたずら描き』はサンテグジュペリの影響は全く受けていない、ということを私の名誉のためにお断りしておく。
あれは、1960年代の後半、ロサンゼルスのアート・センターで学んでいた頃のことだった。デートしていたネブラスカ州出身のベッティ(Bette)という女子学生が、クリスマスの帰郷前に『王子』の本を置いて行った。本の扉を開けたら「私が大好きな本ですからアランに差し上げます。色々楽しい思い出をありがとう。サヨナラ」と書いてあった。後で判ったことだが、あの時、彼女は他の学生と恋に落ちていたようだ。『本』は、あれから何度も引っ越しをしている内、どこかへ失してしまった。
サンテグジュペリは1900年(明治33年)生まれ。第二次大戦中、フランス軍のパイロットとして活躍していたが、多分墜落か撃墜されたのであろうか、1944年(昭和19年)に行方不明となった。数年前、地中海でダイバーが彼の物の思われるブレースレットを発見し、永年の『不明説』に終止符が打たれた。
44才という若さで亡くなったサンテグジュペリは、数々の名言を遺している。その一つをご紹介する。
「貴方の未来は予見することではなく、可能にさせることだ。(英訳:Your task is not to foresee the future, but to enable it.)」
1 件のコメント:
子供の頃見えた『夢』が、大人になると見えなくなるようです。『初心忘るべからず』時に童心に返ってみるのもいいでしょう。
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