2010年5月11日火曜日

追悼:輝かしく年輪を重ねたリナ・ホーン


人間誰でも年をとれば皺(しわ)が増え、髪の色が白くなる。当たり前な話だ。しかし、中にはその自然現象を拒否し、魅力ある若さを『永遠に』保たせるべく、エリザベス・テーラー(Elizabeth Taylor)のように美容整形に執着する女性もいる。しかし、彼女はそうした努力で老化現象を避けるという執念が空しいことに気が付いていなかったようだ。


だが、歌手、女優、ダンサーとしての輝かしい一生を通したリナ・ホーン(Lena Horne:上と左の写真)は、年を重ねると共に磨きがかかり、老いても敢えて『若さ』に執着せず、無理なく見事に『円熟』の境地に達した。そのリナ・ホーンが、去る5月9日、92才の生涯を終えた。

リナは、1917年(大正6年)6月30日、ニューヨーク、ブルックリンで、ジョン・カルホウン(John C. Calhoun)一家に生まれた。両親ともに血統は、黒人、白人、インディアンの混血で、黒人社会では教育がある中産階級に属していた。父のエドウイン・ホーン(Edwin "Teddy" Horne: 1882-1970)は、賭博に関係のある商売で、リナが3才の時に出奔した。母のエドナ(Edna Scottron)は黒人芝居の女優で巡業が多く、幼いリナは祖父母に育てられた。

5才ななってから、母親の巡業に付いて諸州を転々とした。一時、2年ほどヴァージニア州にいた叔父フランク・ホーン(Frank S. Horne)の家に住んでいたこともある。この人は、フォート・ヴァレー・ジュニア・インダストリアル・インスティチュート(Fort Valley Junior Industrial institute)の校長で、時の大統領ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)の相談役を務めていた。

リナは12才になり、母と共にニューヨークへ戻り、女学校へ入ったが、中退して卒業しなかった。

16才の時、ハーレムのナイトクラブ(the Cotton Club)でコーラスの一員となり歌っていた。やがてハリウッドのオーディションを通り、様々な映画の端役を演じていたが次第に認められ、大役を与えられるようになった。代表的なミュージカル作品には、Thousands Cheer(万雷の喝采:1943), 『Broadway Rhythm (ブロードウエー・リズム:1944), 『Two Girls and a Sailor (二人の女性と一人の船乗り:1944)』, 『Ziegfeld Follies (ジーグフェルド・フォリーズ:1946)』, 『Words and Music (言葉と音楽:1948) など、ヒット曲にはCabin in the Sky (空中のキャビン)』、『Stormy Weather (荒れ模様)』、『Owing to the Red Scare (アカ嫌いに借りがある)』、などがある。(左の写真:1957年から1959年まで公演されたミュージカル『ジャマイカ(Jamaica)』の舞台で)

私的な面では、人種差別に抗議して公民権運動に加わり、1963年8月、首府ワシントンへの行進に参加したりした。そのためか、映画界のブラック・リストに載り、一時干された。それでというわけでもなかったろうが、再びナイトクラブテレビに出演するようになった。

1986年3月、一旦引退を表明したが、翌年ブロードウエーの劇場でリナ・ホーン:その人とその人の音楽(Lena Horne: The lady and Her Music)』と題する独り芝居で自演した。これが当たって数々の受賞を獲得した。1990年代に入っても、時々歌をレコーディングしたり劇場に出演したりしていた。(右の写真:
二つのグラミー賞を獲得した後で、上記の独り舞台での一コマ)

リナ・ホーンの逸話は数え切れないほどあるが、ジェームス・ギャヴァン(James Gavin)が書いたStormy Weather(荒れ模様右の写真)』に詳しく書かれてある。

彼女は、ピアニストでMGMの音楽監督をしていたレニー・ヘイトン(Lennie Hayton)という白人男性と、1947年にフランスで結婚し、3年間それを秘密にしていた。これが彼女に関する最大の逸話かも知れない。
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リナ・ホーンの主な受賞歴

Grammy Awards(グラミー賞)

★ 1981: Best Cast Show Album: Qwest版
★ 1981: Best Pop Vocal Performance; 女性部門: Qwest
★ 1989: Lifetime Achievement Award
★ 1995: Best Jazz Vocal Performance: Blue Note

Other Awards (その他の受賞)

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1980: New York Drama Critics Circle Award: Special Citation
★ 1980: Drama Desk Awards; Outstanding Actress —女性部門
★ 1981: Tony Awards; Special Citation
★ 1984: JFK Center for the Performing Arts; Kennedy Center Honors
★ 1987: American Society of Composers, Authors and Publishers:
     The ASCAP Pied Piper Award
★ 1994:Sammy Cahn Lifetime Achievement Award; Songwriters Hall of Fame
★ 1999: NAACP Image Award; Outstanding Jazz Artist
★ 2006: Martin Luther King Jr. National Historic Site;
     International Civil Rights Walk of Fame (included)

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

大女優、大歌手でありながら、何か巧まない率直さに魅かれます。『姐御(あねご)』っていう感じでしょうか。