ブルース・ウェバー(Bruce Weber)
5月1日付け、NYTより抜粋
5月1日付け、NYTより抜粋
芸能界の名門に生まれ育ち、その血筋を受け継いで舞台や映画に出演し、劇作の脚本も書いていた女優リン・レッドグレーブ(Lynn Redgrave)は、2003年に乳ガンの手術を受けて以来、放射線治療を続けていたが、去る5月1日、コネチカット州ケント市の自宅で息を引き取った。享年67才。
リンは1943年3月8日、ロンドンで生まれた。リンの父親はイギリスの名優マイケル・レッドグレーブ(Michael Redgrave)で、彼女はその末娘。姉は華々しく有名になったヴァネサ・レッドグレーブ(Vanessa Redgrave:右の写真の左)、その栄光の陰で一生を過ごした。だがそれなりに、喜劇的な役もこなしながら、シェークスピアやバーナード・ショウ(George Bernard Shaw)の古典的な役柄も演じた。
リンは ロンドンのセントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマ(the Central School of Speech and Drama)で学び、初舞台は1962年、ロイヤル・コート劇場(the Royal Court Theater)で公演された『真夏の夜の夢(A Midsummer Night’s Dream)』だった。その後、ローレンス・オリビエ(Lawrence Olivie)、ピーター・オツール(Peter O'Toole)を始めとしてそうそうたる舞台人たちから実地に教えられた。
過去20年来、専ら劇作に専念していた。その内の第4作目は『レイチェルとジュリエット(Rachel and Juliet)』と題する自分の家族に関する追想だった。レイチェルはリンの母親で、生涯シェークスピアの作中人物ジュリエットに憧憬していた経緯が物語りの軸である。昨年の秋にワシントンで、今年の1月にアリゾナ州のツーサン(Tucson)で公演され、リン自身が出演もした。(左は、ジョン・バロウマン(John Barrowman)と『カンパニー』で共演、ケネディ・センター:2002年)
リンは、近親のゴシップにしばしば悩まされていたが、女優としての評判は傷つけられることなく、トニー賞(Tony Awards: ミュージカルを含む舞台芸能に与えられる賞)の候補に3回、オスカー賞(Oscar Award: アカデミー賞)候補が2回、エミー賞(Emmy Award)に2回、選ばれたが賞は獲得していない。リンが脇役だけでなく主役も演じているにも拘らず、いずれの役柄でも、批評家や観客が頭に描いている『主演女優』のイメージに合致しない彼女の容姿容貌によるものだと思われる。
1966年、当時23才だったリンが題名役の『ジョージィ・ガール(Georgy Girl)』で主演した。中年男の役はベテランのジェームス・メースン(James Mason)、若いジョージィに年甲斐もなくベタ惚れする、という筋書きである。リンはこの肥ってたくましい役をこなす為に6キロ余りの増量したということだ。これでアカデミー主演女優候補に上ったが、受賞はできなかった。演技力はともかく、これで好むと好まざるに拘らず、リンの『女優らしからぬ』イメージが定着してしまったのではなかろうか。
リン・レッドグレーブが初めてブロードウエーの舞台に立ったのが1967年、ピーター・シェィファー(Peter Shaffer)作の『ブラック・コメディ(Black Comedy)』。以後サマセット・モーム作(W. Somerset Maugham)『誠実な妻(The Constant Wife:左の写真:ケィト・バートンと共演)』他、『ウォーレン夫人の特技(Mrs. Warren’s Profession:1976年)』、『聖女ジョアン(Saint Joan:1977年)』などを含めて数々の舞台に立った。
リンが最初に書いたの劇作は『私の父に贈るシェークスピア(Shakespeare for My Father)』で1993年にブロードウエーで公演された。この筋書きは、彼女が幼かった頃、父の存在が遥か彼方で孤独だったことや、姉や兄の思い出を綴ったものである。その挿話の一部には、姉や兄が世界的に有名な地位にあり、自分を『負け犬』になぞらえていた。
芸能界の名門の出にありながら、リンはテレビの連続ドラマの数々に出演していた。いずれも収入を得るためであって『働く女性』をもって自認していたようだ。 1990年代の半ば、リンは久方ぶりで映画に復活し、1996年『シャイン(Shine)』で主演のジェフリー・ラッシュが演じた精神障害ピアニストの妻を好演した。1998年の『神々と怪物ども(Gods and Monsters)』では家政婦を演じ、30年振りに2度目のアカデミー助演女優候補に選ばれたが、受賞は逸した。(右は、その舞台版。この演技で1999年にゴールデン・グローブ賞Golden Globe Awardを受けた)
数ヶ月前、リン・レッドグレーブは劇作の執筆について「私は自分のために好きで書いているの。でも他の人達のことだって考えているわ」と語っていた。
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その他の舞台
アラン・ベネット(Alan Bennett)作、独白劇『トーキング・ヘッズ(Talking Heads)』。2003年、オフ・ブロードウエー。『誠実であることの大切さ(The Importance of Being Earnest)』リン・レッドグレーブ扮するブラックネル夫人を中央に、右はシャーロット・パリー(Charlotte Parry)、左はロバート・ペトコフ(Robert Petkoff)。ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック( the Brooklyn Academy of Music)で2006年公演。
2008年、オフ・ブロードウエーで公演された『慈悲(Grace)』。リンの役柄は信仰と科学の問題で悩む無神論者。
1 件のコメント:
1966年、リン・レッドグレーブが演じた『ジョージィ・ガール』の大胆な演技は、脳裏に焼き付き、未だに忘れられません。
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