2009年5月21日木曜日

森林火事の功罪と野鳥

ワーブラーが歌う季節
高橋 経(たかはし きょう)ミシガン州ロスコモン郡在住

カリフォルニア州で森林火事が猛威を振るっている。それも一度や二度ではない。昨年から今年にかけて、何千何万ヘクタールを焼き払い、そこに住む家屋を灰にし、数多の罹災者や死傷者を出した。乾燥し切った空気と、西海岸独特の風向きが火勢をあおった。一部で放火の疑いもあったが、樹木の摩擦や落雷で点火されるという避けられない天然現象も出火の原因となる。地上から、空から消防を試みたが、一度火勢を得ると人力では手の施しようもなくなる。おおむね、焼くものを焼き尽くした後で鎮火するのが過去の現実である。
これが森林火事の『罪』の面だが、一方で自然の摂理ともうべき『功』の面も見逃せない。今日はこの『功』の面に関連した話題を提供する。


我が家の近隣にカートランド(Kirtland 左の空からの写真)という名の地域がある。我がロスコモン郡、東隣のオゲモウ郡(Ogemaw)、東北隣のクロフォード郡(Crawford)、オスコダ郡(Oscoda)、の4郡にまたがって州が保護している広大な森林地帯がカートランドだ。[地図の黄緑部分がワーブラーの生息地]

そのカートランドを有名にしているのが毎年春から秋にかけて南から飛んできて生殖を営む渡り鳥ワーブラー(Warbler)の存在である。ワーブラーを辞書で引くと、『ムシクイ(虫食い)』という何とも味気のない名が出てくる。虫を食べて生きている鳥はスズメ、キツツキ、コマドリ等他にもいくらでもいるから固有名詞らしくない。更に大きな辞書で引いてみると、ウグイス科に属する、とあるので幾らか安心し、また形容詞的用法として「声をふるわせて、鳥がさえずるように歌う、、、」ともあるので、やっと納得させられた。左様、ワーブラーはその可愛いさえずり声で人々を魅了しているのである。

また、ワーブラーには数々の違った種族がある。我が家にも数々のワーブラーや野鳥が餌を求めて集まってくるが、そのカートランド・ワーブラーだけは寄り付いてこない。「たかが野鳥、されど野鳥」で、その疑問を解くべく、毎年5月半ばの土曜日、一日だけの行事カートランド・野鳥ワーブラー祭り(Kirtland's Warbler Wildlife Festival)』に参加してみて全ての疑問が氷解した。

カートランド・ワーブラーはその巣作り、生殖、子育てのための生活環境に極めて限定した条件を求めている。先ず巣はバンクス松(jack-pine)が密生した森の中であること、砂地であること、松の丈も若木で1.5メートルから4メートルまでで、大木の森は敬遠し、砂地も或る程度の湿気を必要とする。

この条件を満たすために時に天然の森林火事が過去には『功』の部分を
受け持ってきた。大木を焼き払い、焼けた松ボックリ[左の写真]が火事の熱ではぜ、焼け野原に種をまき散らし、新しい松が成長する、といった自然の摂理の循環が森羅万象を更新させてきた。

しかし州の保護機関、天然資源計画部門(Department of Natural Resources)としては
『罪』の面が大きい森林火事は避けるべきだと考え、火事の代わりに人為的な手段で林業業者に成長林を売り払って伐採、撤去させ、その跡地にバンクス松の苗木を植える、という作業を繰り返し、常に若い松林の一角を確保することを可能にしてきた。業者も安価に木材が入手でき、双方めでたしの解決策となった。[下左から:伐採倒木、運搬、苗木植えトラクター]

それというのも、カートランド・ワーブラーを恒久的に帰巣させたい一心からの努力である。どうやらこの労苦は報いられているようで、この愛すべき小鳥たちは毎年忘れずに帰ってくる。

雁(カリ)などの渡り鳥が想像を絶する長距離を毎年往復することは知られているが、カートランド・ワーブラーのような小鳥でも、同じような長距離を飛んでいる。夏から秋にかけてひな鳥が育って飛べるようになると、彼らは温暖な南へ旅立つ。目的地はミシガン州から4800キロ離れた南、フロリダ半島の南東に浮かぶバハマ諸島(Bahama Islands)である。冬から早春までそこで過ごし、晩春になると北に向かって旅立ち、5月の初めカートランドに到着して巣作りを始める、というのが彼らの年中行事である。

ワーブラーは巣を草むらや雑木の陰の地面に作るので、野鳥観察に訪れる人々が巣を踏みつける事態が生じないよう、一般の敷地内の歩行は禁止されている。

ワーブラーの生態を何気なく観察していると、「可愛い」とか「美しいさえずり声」の部分しか見えず、彼らが彼らなりの過酷な生存競争にさらされていることには気がつかない。鷲(ワシ)や鷹(タカ)など猛禽の餌食になることもあるだろうし、ムク
ドリ(cowbird)がワーブラーの巣に卵を産みつけ、それと気が付かないワーブラーが他人(?)の卵を孵した挙げ句、そのひな鳥に餌を運び、せっせと育てるという徒労を負わされることすらある。

それを知った天然資源計画部門の要員たちは、ムクドリを捕獲して追放する、という作業もカートランド・ワーブラーを保護するために必要な措置として計画に加えることにした。それは金網で囲った罠(わな)で、ムクドリはその中に置いてある餌を求めて入ってくるが、一旦入ると二度と表に出られない仕掛けになっている。[右の写真がわな、左が金網内部のムクドリたち]この罠で捕獲されるムクドリは年に数千羽というから、ワーブラーに育てられたムクドリのヒナの数も想像できるであろう。

以上がカートランド・ワーブラーに関して得た私の新知識だが、同時にこの世の中に野鳥を愛する人々が想像以上に大勢いること、そしてその野鳥を保護するために、可成りの予算が計上され多くの人々が日夜研究し働いていることも知らされた。充実した5月の土曜日ではあった。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

住み難い世の中に、野鳥の『住み心地』をよくするために努力している人々がいることを知ると、何か救われるような思いがいたします。