[註:広辞苑によると天啓とは「天の導き』、「天が真理を人間に示すこと。天の啓示」とある。編集]
ディヴィッド・ハジュウ(David Hajdu)
2011年5月23日付けNYTから抜粋
ボブ・ディラン(Bob Dylan)の誕生日は今年5月23日で70才になった。言うまでもないが、ボブ・ディランは、1960年代の後半に売り出したフォーク・ソングの作詞、作曲、歌手である。ここ数週間というもの、幅広い年齢層に深く浸透した大勢のファンが、彼の輝かしい経歴や数々の名作を再生して誕生日を祝っている。
ところで、最近70才の誕生日を迎えたポップ歌手はボブ・ディランだけに止まらない。 ジョン・レノン(John Lennon:左)が生きていたら、昨年の10月に70才になる筈だった。(この末尾に掲げた『Imagine』のビデオをご鑑賞下さい)
ジョアン・バエズ(Joan Baez:右)は去る1月に70才の誕生日を迎えた。
ポール・サイモン(Paul Simon:左)と、ジョージ・クリントン(George Clinton)は、年末前に70才を迎える。
来年になると、ポール・マッカートニィ(Paul McCartney:下左)、アレサ・フランクリン (Aretha Franklin:下左から2人目)、キャロル・キング(Carole King:下左から3人目)、ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)、ルゥ・リード (Lou Reed)、ジミィ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix:下右端)そしてジェリー・ガルシア (Jerry Garcia)等が続々と70才代になる。
これほど同時代に集中して人気ポップ歌手が台頭したのは偶然だったのだろうか?しかし私が彼らの過去を調べて見ると、この『偶然』には確固たる原因があった。
ボブ・ディラン(当時の本名Robert Zimmerman)がミネソタ州の高校(Hibbing High School)で新入生だった14才の時、エルビス・プレスリー(Elvis Presley:右)が吹き込んだ初期のレコード(『ミステリー・トレイン』を含む)を聞いて発奮した。天啓とでも言うべき心情だったのであろう。ディランその時を振り返って「エルビスの声を初めて聞いた時、直感的に牢獄から解放されたような感じで、俺は自分の天性を生かし、他人の下では働くまいと決心した」と語っている。
大きなバンドの演奏者だった父を持ったポール・マッカートニーも「プレスリーの『ハートブレィク・ホテル(Heartbreak Hotel)』を初めて聞いた時、これだ、と霊感に打たれた」と語っている。1956年、マッカートニーがそれまで使っていたトランペットを捨て、ギターに切り替えた。14才の時だった。
時代は一世紀昔、1911年に遡る。黒人の音楽が流行し始めていた。その真っただ中で白人のアーヴィング・バーリン(Irving Berlin:上左)作曲の『アレキサンダー・ラグタイム・バンド(Alexander’s Ragtime Band)』が売れに売れ、シート楽譜だけでも100万枚も売れた。その曲を聞いて天啓を受け、未来の作曲家/音楽家になったのが、シドニィ・ベシェット(Sidney Bechet)、ジミィ・ロジャース(Jimmie Rodgers)、フレッチャー・ヘンダーソン(Fletcher Henderson:上右)である。いずれも当時14才だった。
今から82年前の1929年、音響技術が開発されマイクロフォンの性能が向上し、ラジオ放送などで囁くような音楽が可能になった頃、歌手のルディ・ヴァレィ(Rudy Vallee:上左)がその効果を最大に利用していた。そうしたムードの『囁き音楽』を聞いて育ったのがビリー・ホリデー(Billie Holiday:上中)であり、フランク・シナトラ(Frank Sinatra:上右)であり、いずれも14才だった。
新進タレントを発掘紹介することで人気があったテレビ番組『エド・サリヴァン・ショー(The Ed Sullivan Show)』でビートルズ(the Beatles)が出場したのが1964年。この世界中を席巻した新しいスーパースターの音楽を聞いていた14才の少年たちの中に、ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen:上左)、スティヴィ・ワンダー(Stevie Wonder:上中)、ジーン・シモンズ(Gene Simmons)、ビリー・ジョェル(Billy Joel:上右)等が混じっていた。
一体、14才という年令にどんな意味が潜んでいるのだろうか?
もし、ボブ・ディランがもう4、5年早く生まれていたら、、、と想像する。プレスリー以前の人気歌手、テレサ・ブリューワ(Teresa Brewer)とか、ヴィック・ダモーン(Vic Damone)の甘ったるい恋歌を聞いていて魅了されただろうか。或は、マーロン・ブランド(Marlon Brando)が演じた反社会的な『乱暴者(The Wild One)』に刺激されて映画俳優を志していたかも知れない。
14才という年令は、少年から青年になる過渡期で、性に目覚め、どんな成人になろうかと自問自答し無意識の内に暗中模索し始める年令である。
「14才とは神秘的な年令で、自分が好む音楽を選び消化する年令です。思春期ホルモンの成熟過程で体験することは、音楽を含む全てが非常に重要な成長要素になります。自己の趣味興味が確立された時、認識能力の成長が頂点に達します。音楽の場合にはそれが自分の自己顕示になります」と、マクギル大学(McGill University)で『音楽の享受、認識と評価(Music Perception, Cognition and Expertise)』調査研究部の主任を務めるダニエル・レヴィティン(Daniel J. Levitin)心理学教授は断言する。
たった今2011年の時点で14才の男女青年が何かの天啓を受け、その道で名を上げ、70才になる2067年には、どんな天才の有名人を祝福することになるのだろうか?考えただけでも夢が広がる。
最後に、今は亡きジョン・レノンを偲び『イマージン(Imagine)』をご鑑賞あれ。
[筆者、ディヴィッド・ハジュウ(David Hajdu)はコロンビア大学のジャーナリズム科教授で著書に『Positively Fourth Street: The Lives and Times of Joan Baez, Bob Dylan, Mimi Baez Fariña and Richard Fariña』がある。]
1 件のコメント:
14才が受ける天啓は音楽に限らない。ご自分が14才だった頃、どんな天啓を受けたか、思い出してみるのも愉快ではありませんか。
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