『外人排斥』を叫ぶ日本の新しい異論派
マーチン・ファクラー(Martin Fackler)
2010年8月28日付け、NYT掲載の記事全文
マーチン・ファクラー(Martin Fackler)
2010年8月28日付け、NYT掲載の記事全文
京都発:去る12月のある日、在日朝鮮人小学校で児童の昼食時に、デモの一群が現われた。約12名ほどの日本人男性が校門の前で拡声器を使い、児童たちを「ゴキブリ」とか「朝鮮のスパイ」などと罵り始めた。
校内にいた学童や教師たちは恐怖に陥り教室内部で肩を寄せ合い、表からの罵り声をかき消すように大声で歌を唱った。結果として、警官が出動して校門をふさぎ、デモ隊の侵入を阻止した。
この12月事件は、京都第一朝鮮人小学校を対象にして行われたデモの第一波で、政治的な抗議をする過激分子の行動で、子供達はおろか一般市民まで巻き添えにされたくないと願っていた日本人にとっては衝撃的な事件だった。こうした市民の憤激に対処すべく、警察は学校の名誉を毀損した過度で4名の過激派を逮捕した。
問題は、こうした抗議分子の出現によって、新型の超国粋主義組織が台頭し始めた前兆を示したことだ。各組織は、公に『外人排斥』を主張の中に掲げ、無秩序な街頭デモをして世間の注目を集めている。
昨年末に行われた最初のデモ以来、彼らの目標は単に50万人の在日朝鮮人だけに止まらず、中国人や他のアジア系労働者、キリスト教会の信者、さらに西欧人も矢面に立たされている。(たまたまハローインの衣装を着ていた)後者への攻撃では、何十人ものデモ隊がその周りに付きまとい、『ここは白人が住む国ではない(This is not a white country)』と大書したプラカードを振りかざしていた。
地方紙などでは、こうしたグループがインターネットを通じて組織され、デモの時だけ顔を合わせることから『ネット極右』と名付けているようだ。言うなればこうした組織はウエブサイト上で仮想の組織が形成され、抗議計画の日時を知らせたり、ビデオでデモの様子を見せたり情報を交換している。
こうした仮想組織は、コンピューター・スクリーン上の発言が主な要素である限り少数派で止まっている一方、日本の経済や政治の長期的な停滞に乗じて、世間の注目や関心を集めるという漁夫の利も得ている。組織の会員の大半は、最近の日本で急増している低収入のパート・タイム勤務者や、不安定な契約社員などで就労している若年層であるようだ。
一部の人々は、こうした組織を『新ナチ(neo-Nazis)』と対照させているが、社会学者に言わせると、ナチのような人種的優越感に裏付けられた過激な理想を持っているわけではないから対照的には考えられないとし、また彼らは注意深く実力行使を画す線を引いている、と見ている。
関西学園大学の社会学科スズキ・ケンスケ教授は「あの人達は、自己の社会での市民権を喪失したと感じているので、最も無難な外人を攻撃し非難することによって代償としているのです」と観察している。
また彼らは日本に現存する極右翼-----東京で屢々見掛ける軍服を着て黒塗りのトラックに乗り、ラウドスピーカーで軍歌を流し回る-----の組織とも性格が異なる。
こうした旧態な極右翼組織の根源は、日本の軍国主義が台頭した1930年代(昭和5年頃から)にさかのぼり、今日では保守的な政治団体の一部門として認められている。社会学者は、こうした右翼組織は非公式ながら戦後の日本で国民を統一する役割を演じ、また日本国民が左に傾かないための歯止めにもなっている。またあるいは、日本と国境問題で結着がついていない国(ロシア?)の大使官は、こうした極右の抗議を快く思っていない。
従来の右翼組織に属するメンバーたちは『ネット右翼』を「素人くさい烏合の衆」と呼び、いち早く一線を画した。右翼民族派団体の一つとして知名度が高く100名の会員を擁する一水会(いっすいかい)の最高顧問、鈴木邦男(すずき くにお)は「あのような新しい組織は愛国心からではなく、『目立ちたがり屋』にしか過ぎない」と決めつける。
とは言うものの、鈴木氏は『ネット右翼』の目覚ましい進出に反し、旧来の極右翼団体が縮小していることも認めている。彼の推定によると、その団員数は現在では1万2千人、1960年代の最盛期に比べて10分の1に減少したとのことだ。
『ネット右翼』には鈴木氏が示したような明確な数字は存在しない。だが、『ネット』で最大の組織は『在特会(ざいとくかい:在日[朝鮮人の]特権を許さない市民の会:ざいにちとっけんをゆるさないしみんのかい;の縮小名)』で、目下9千人の会員を誇っている。
在特会は、昨年14才のフィリッピン少女の家庭や学校に対し、故国へ強制送還させるべく要求をつきつけて話題になった。少女の両親は、査証切れで既に送還されていた。また在特会は最近、日本でイルカを捕獲し食用に供することを記録したアメリカのドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ(The Cove: 本ブログ6月半ば『イルカ』の表題で3点公開)』を「反日的である」とし、その公開を阻止しようとして劇場にピケットを張った。
インタビューに応じた在特会や他の団体のメンバー達は、在日の外人-----特に朝鮮人と中国人-----が、日本の犯罪事件や失業問題の増大を深刻化させ、それぞれの政府が国際協定を尊重しない、と非難していた。また殆どが、中国またはアメリカがインターネットを通じて日本を衰えさせようと陰謀を企てている、とも考えているようだ。
在特会の地方分派会長、東京の郊外、大宮に住む37才のオオタ・マサルは「日本は財政的に縮小しつつあります。日本人が経済的に苦しんでいる昨今、外人に分け前を与えるだけの余裕はありません」と嘆く。
在特会は、3年半前にたった25人で発足して以来、急速に成長してきたが、今でも創立者、38才の税理士、桜井誠(さくらい まこと:本名ではない:右の写真)が会長として組織を運営している。その本拠は東京、秋葉原の電気器具街にある小さな事務所でパソコンを叩き、全国の会員に情報や指導を伝達している。
桜井は、在特会は人種差別の団体ではないから『新ナチ』と同等に見なされるのは迷惑だと言う。彼はむしろ海外の政治団体、例えばアメリカにおけるティ・パーティ(the Tea Party)の活動状況を見習い、同パーティが抱く怒りの感情を学びとり、間違った方向に国家を導いている政治家達を啓蒙し、国家が左翼の手やリベラルな媒体に落ちたり、果ては外人に撹乱されないよう牽制活動しているのだそうだ。
「彼らは、中国や朝鮮に対抗する日本を無力にしています」と言う桜井は、本名を明かそうとはしなかった。
桜井は、在特会の作戦が多くの日本国民にショックを与えたことを認め、またそうすることによって、世間から注目される必要がある、と信じている。彼はまた、京都の朝鮮人学校にした抗議の一つに、学校が近所の公園を私有化していることを不満とし、本来なら日本人児童に開放すべきだ、と主張していた。その抗議について、同校の先生や父兄は、人種差別の本心を隠す口実に過ぎないとし、学校側に不安を残し、児童たちは恐怖に陥っているようだ。
同校の『母の会』会長、43才のパーク・チャングハ(Park Chung-ha)は「日本政府がこの差別的な抗議に対して善処してくれなかったら、今後どうなるか思いやられる」と不安の色を見せていた。
[編集から:日本と朝鮮の関係は、古くは大和時代から、1597年(慶長2年)秀吉の朝鮮出兵の失敗、1910年(明治43年)の日韓併合で朝鮮は日本の管轄下に、1945年(昭和20年)の敗戦で朝鮮は独立、と波乱続きの国交を歴史に残し、双方の国民はお互いに微妙な感情を抱えています。 私の戦時中の記憶に残っているものは、朝鮮人に対する偏見と差別が明らかに存在していたことです。従って、上記の記事に接した時『偏見』の根深さを思わずにいられませんでした。記事を額面通りに受ける気になれず、かといって無視するには重要な課題と思われたので取り敢えず公開に踏み切りました。
その代わり、記事の最後に取り上げられている『在特会』の実態について調べてみました。第三者の見解と、同会のサイトの発言を比べ、ほぼ一致していたので、次回に公開いたします。公平な見解をご期待ください。]
1 件のコメント:
『偏見』とか『差別』という言葉には、忌まわしい悪の根源が潜んでいます。全ての戦争の根源でもあります。
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