ステム・セルとガン(癌)との関係
志知 均(しち ひとし) 2010年8月

ステム・セルときいてもあまり興味のない方でも、ステム・セルが癌(ガン:cancer)と密接な関係があると聞くと、俄然興味をもってくる。それが本稿の主題である。ガンとの関係を考える上でステム・セルに関するある程度の知識が必要なので、それについてまず要約する。すこし話が難しくなるかもしれないが、しばらく読み進んでいただいたい。

このようにヒトの身体の成熟細胞はすべてMSCからできるが、MSCの分化は一方的(不可逆的)で、通常は成熟細胞がステム・セルに戻ることはない。従って、ある特定の組織(器官)の細胞を作るにはESCしかないことになる。しかしESCを使うことは、ブッシュ大統領の時代には倫理的制約があり、研究が行き詰まった。





ステム・セルと癌との関連が出てきたところで、いよいよ本題に入ろう。


ヒトの癌(悪性腫瘍)からとった細胞群を調べて、その一部だけが癌細胞であることは、1960年代にすでに判っていたが、技術上の制約から研究が進まなかった。近年になって、細胞を迅速に分離同定する機器(Flow cytometry)が開発され、癌腫瘍をつくる細胞は単一でないこと、また腫瘍を大きくしたり転移したりするのは、ほんの一部の細胞であることが確定された。

ここまで述べたことから、癌治療にはガン、ステム・セルの根絶が重要なことは明らかであるが、そのために、どのような手段が考えられるだろうか? 現在使われている抗癌剤はガン、ステム・セルだけでなく、正常ステム・セル(MSC)の増殖も阻害するので好ましくない副作用が多い。ガン、ステム・セルに特異的な阻害剤は作れないのだろうか?

ガン、ステム・セルに関する知識の進歩のおかげで、癌は前世紀に恐れられたほど怖い病気ではなくなってきている。不治の病でなくなる日も遠いことではないであろう。
追記: 2010年10月4日~6日にデトロイト、ルネッサンス・センターのマリオット・ホテルでWorld Stem Cell Summitが開催される。詳細は WorldStemCellSummit.comで。
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編集から:私のように医学的な知識に乏しい者には、志知さんが書いた超マクロな顕微鏡下の世界は、中々理解し難い点があります。そこで、色々調べたところ、アニメーションで解説された初歩的な映像が見付かり、『人体の神秘』を目の当たりにし、大いに理解を深めることができました。私程度の医学知識しかない方々に下記のビデオ鑑賞をお奨めいたします。
http://www.youtube.com/watch?v=lWfw5en2MEM&NR=1

http://www.youtube.com/watch?v=mUcE1Y_bOQE&NR=1
なお、この他にもステム・セルに関する話題の映像が、上記のリンク、YouTubeの関連で数々用意され、ご覧になれます。中級または上級の医学知識をお持ちの方々は、その方面を開拓なさるのも有益でしょう。
1 件のコメント:
日本では、ガン患者にガンであることを知らせると『死刑の宣告』に等しいと考えられ、周囲が知っていても本人が知らない、という習慣が今でも残っているようです。もう隠す必要がなくなることを願って止みません。
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