タブチ・ヒロコ;東京発
10月1日付けNYタイムズ評論
10月1日付けNYタイムズ評論
[お断り:英語に翻訳された評論を日本語に再訳いたしましたので、原文と異なる表現があるとは思いますが、筆者の真意はお伝えできたと信じております。また、筆者および文中に挙げられた姓名、企業名を確かめられませんでしたのでカナ表記といたしました。ご諒承ください。]
ここ何年というもの、日本は中国から経済的に圧迫されている。世界的に緩慢になった経済事情のあおりを受け、殊に去る1日に新中国建国60周年の華々しい式典が繰り広げられ、思いの外早期に達成した中国経済の成長に対して、日本はどう対処したらよいかと困惑している状態にある。(上の写真は東京流通センター)
最近の貨幣価値の激しい変動の動きが(日本の)立ち上がりを遅らせているとはいえ、多くの経済専門家は『世界第二位』の地位を(中国に)譲らねばならない日が来年には到来するであろう、と見ている。これは、以前の予測より5年も早かった。
予想されることは、地域的や局部的な状況だけに止まらない:幸運の変換で、過去40年に亘って優位に立っていた(日本の)世界的な経済順位に、貿易や外交から、果ては軍事力など、あらゆる末端に至るまで終止符が打たれるであろう。 中国の(経済的な)発展は、日本の輸出市場が(中国へ)移行し、国家の負債が増加し、高令化が進み、生産年令人口が減って生産が低下する、などによって日本の没落が加速するであろう。
東京の第一生命調査部(The Dai-Ichi Life Research Institute)のクマノ・ヒデオは「今後10年から20年の世界経済の推移において、日本がどこまで没落するか、私には想像がつきません」と悲観的だ。 日本が『経済的な幸運』で急成長し、世界最強の経済国アメリカと対抗できるほどに巨大化したのは、さほど昔のことではない。 今や多くの人々が、日本は第二のスイスになる運命にあるかも知れないと危ぶんでいる。スイスの運命とは、豊かで安楽、世界経済と無関係で、他の国々から無視される国のことを指す。
1億2千7百万人の国民の多くが望みを持ち続けていても、日本の没落は免れないかも知れない。 1980年代(昭和55年代)の後半にアメリカを追い越した日本の個人当たりの国内総生産が、2007年(平成19年)には3万4300ドルに低迷し:今やアメリカのそれから4分の1にまで下がり、世界の19位に止まった。(右のチャート参照) 所得での貧富の差は広がり、貧困が増加した。
物価や所得が急速に下がった一方、失業率は5.7パーセントを記録した。日本経済は、本年度前半の3ヶ月に年額にして11.7パーセント縮小し、第二期の3ヶ月にやっと2.3パーセント回復した。 2009年(今年)、日本の経済の予測が前年比3パーセントの縮小で翌年は約1パーセントという弱々しさに比べ、中国経済は8パーセント成長する模様である。
過去20年間における中国の成長率は、殆ど毎年10パーセントを記録していた。その期間中、日本では産業の停滞状況から抜け出そうと、新しい産業の開発を試みる代わりに、瀕死の産業を保護し経済の活性化を期待して公共事業計画に力を注いだため、経済は不活発となり莫大な負債を背負うことになった。
日本の困難は、世界的に蔓延した経済危機により、戦後最悪の不景気となり混迷状態にある。今年、海外市場の主な需要が消滅したため、生産と輸出が40パーセントも落ち込んだ。
日本会社(Japan Inc.)は、世界市場の地図から急速に消滅しつつある。1988年(昭和63年)、野村証券が発行した『市場の投資状況による企業の順位』で、世界のトップ10位の中に日本電電公社(Nippon Telegram & Telephone)を始めとする8企業が占めていた。今年の7月31日現在で、トップ10位の中に日本の企業は全く見当たらない。その代わり、中国とアメリカの企業が殆どを占め、トヨタ自動車が144.5億ドルで22位に、他に5社がトップ100位にやっと食い止まった、という現状である。
最近の経済雑誌フォーブス(Forbes)が発表した世界の金持ち順位によると、日本で最高に稼いだ小売り業者のヤナイ・タダシがやっと、メキシコ、インド、チェッコの富豪に次いで76位に入っていた。鉄道で財を築いたツツミ・ヨシアキがリストの上位に入っていた1980年代(昭和55年代)の栄華は今や消え去った。
中国は、莫大な貿易余剰金や外貨保有量を確保し、最大の鉄鋼生産を果たし、そうした面でも日本を追い越した。来年になると中国は自動車産業でも最大の生産販売量をもって日本を追い抜くであろう。
(鳩山首相の)新しい政府は、長年に亘って推進してきた輸出に依存する事業政策の割合を減らし、国内の需要に焦点を定めた新しい事業開発を誓約した。長期に亘って独占支配を続けていた自民党を敗って与党を勝ち取った民主党は、社会保障制度の強化と、公平な富の再分配を約束した。
中国では、一人当たりの収入は未だ日本のそれに比べて10分の1である。(前掲のチャート参照)しかし、他の面を比べると、中国は既に日本を追い越している。中国全体での購買力は、1992年(平成4年)に日本のそれを超え、2020年までにはアメリカのそれを超えるであろう。
ある意味で、この現象は経済の基本に反映する:一国が発展を遂げると成長が緩慢になる。日本の国内生産高の成長が1950年代(昭和25年代)に平均10.4パーセントだったのが1970年代(昭和45年代)には5パーセント、1980年代(昭和55年代)には4パーセント、1990年代(平成2年代)には1.8パーセントとなった(ゴールドマン・サックス: Goldman Sachs のデータより)。この世紀(2000年代)には成長は更に鈍化するであろう。
経済専門家の中には、日本は隣国(中国)を脅威と思う必要はない、と考えている人達がいる。中国は2006年(平成18年)には貿易の最大のパートナーで、中国向けの輸出は、最近の経済低迷化の最中に回復の役を果たしている。世界的な自動車需要が低迷している時、トヨタやニッサンは中国市場に活を求めたのだった。日本経済調査センター(The Japan Center for Economic Research)のイイズカ・ノブオは「日本は急速な経済成長を遂げている国の隣国です。それは脅威ではなく利点です。問題は、日本がその利点をどう活用するかです」と言う。
東京の野村証券、投資市場調査部門(The Nomura Institute of Capital Market Research)の幹部、C.H.クワン(C. H. Kwan)は「これは日本にとって心理的な衝撃だったでしょう」と言う。クワンは香港出身で、エズラ・ヴォゲル(Ezra F. Vogel)著『ナンバー・ワンの日本(Japan as No. 1)』を読み、啓発されて東京へ移住してきた。同書は日本の急速な経済成長を賛美した本である。(左の写真は東京都の夜景) 現在、クワンは『ナンバー・ワンの中国(China as No. 1)』と題する本を執筆中である。その著書では、昨今の(中国の)経済成長を基礎に、中国は2039年までにアメリカを追い越すことが可能だ、と予測している。そればかりか、もし中国が毎年2パーセントの成長率を保つことができたら、その達成は2026年に早められる、とさえ見積もっている。
クワンは「我々は、中国は靴ばかり作っている国だ、と言えなくなります。中国は誰よりも長足に前進し、世界の先頭を歩み進むでしょう」と結論を下した。
1 件のコメント:
前途多難です。底辺の人々が一番苦しむでしょう。政治家の手腕が問われる時代です。
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