志知 均(しち ひとし)
2011年10月
仲の良い犬と猫がいっしょに昼寝 |
私の住むコミュニテイーでは警察の動物係が野犬や野良猫の去勢手術やもらい手探しのサービスをしている。この春、裏庭で野良猫が産んだ子猫2匹をワイフが毎日餌を与えて手なずけ、捕らえて動物係へ連れて行った。猫好きの家庭にもらわれていっただろうかと気にかけている。
若い頃に私は犬を一度飼ったことがある。猫は子供たちが成長するまでいつも飼っていた。いろいろな動物の中で、どうして犬と猫だけがヒトと特に関係が深くなったのだろうか?考えてみても判っているようでよく判らない。そこで少し調べたことを、興味ある読者もあるかと思い以下紹介しよう。
オオカミ |
世界中で4億以上の飼い犬がいる。約400種いるが、全てオオカミ(Canis lupus)から由来したことは、遺伝子が99.8%同じだから間違いない。ヒトは15,000年前、狩猟の補佐としてオオカミを手なずけた。犬はその他いろいろなことに有用であることが判り、目的に適した性格や体格を育種(breeding)によって強め、例えば、寒冷に強いエスキモー犬や砂漠の高温に耐えるシリア犬など、多種類の犬を創った。
左から:チン;神社の門番、狛犬(こまいぬ);グレート・デーン;チワワ |
愛玩用のペット犬が現われたのは、イギリスのビクトリア女王時代(1837-1901)である。女王の好みは、足が短く鼻が小さい犬で、狆(チン、pekinese犬)を誰かが中国から盗み出し献上した。狆は本来日本では、お寺や神社の守護をするシシに似せて創られた犬で、ペット犬ではなかった。イギリスではケンネル・クラブもでき、犬の品評会も盛んになった。グレート・デーン(great dane)のように特別大きな犬は、胎児の段階で、胎内に甲状腺ホルモン(thyroxine)を注射して生長を促進して創られ、チワワ(chihuahua)のように小さい犬は数世代にわたる自然淘汰(natural selection)で創られた。
左から:イヌ橇(そり);優れた臭覚が役に立つジャーマン・シェパード;盲導犬 |
ヒトが犬を重用するのは、ペットとする面以上に、ヒトを助ける犬の特別な才能によるところが大きい。例えば、地震や台風で崩壊した家屋に閉じ込められた被災者探しや、麻薬や火薬危険物の探知、盲人の誘導など、犬が貢献する分野は広い。医療分野でもその特別敏感な臭覚を利用して犬は病状診断に使われている。たとえば、患者の尿の臭いから癌を感知したり、糖尿病患者が低血糖になった時示す微妙な体臭変化を感知して患者が意識不明になるのを防ぐ。
犬がこのように人間生活のいろいろな面で役立っているのには、犬がヒトに示す『信頼』と犬の『知能』の高さが関係する。ある心理学者の実験によれば、他人を信用し信頼するヒト、例えば、必ず受け止めるからと言われて、平気で後ろ向きに倒れられるヒトは、オキシトシン(oxytocin)と呼ばれるホルモンの血中濃度が高い(オキシトシンの脳内作用の説明は省略する)。ヒトを信頼する犬の血中オキシトシンの濃度は、ヒトになつかない動物より高いといわれる。
知能については、犬はヒトの言葉をかなり理解し、ヒトと同じように考えるそうだ。またヒトの手の動きや目の動きの意味を理解する。人間同士では、批判し合ったり意見が合わなかったりするからトラブルが起きるが、犬は批判したり反対したりしないで忠実なので、ヒトとの間に特別な信頼関係ができる。ヒトと犬との強い絆の話は洋の東西を問わず多数ある。日本で有名な「忠犬ハチ公」の話はリチャード・ギア(Richard Gere)が主演するアメリカ版の映画『HACHI(右のポスター)』になっている。
野生のネコ(左)とエジプトの女神(猫)の彫刻 |
犬がヒトにとって極めて有用な動物であるのに対し、猫はほとんど役に立たない。では猫はどうやってヒトと共生するようになったのだろうか?ヒトが10,000年前に中近東(現在のイスラエルの辺り)で農業を始めた頃、貯蔵した穀物を野ネズミ(mouse)が食い荒らした。その野ネズミを食用にしようと、猫の方からヒトの集落に近付いてきた。猫はこのようにしてヒトの生活の中へ入りこんだが、犬のように特別な目的のために育種(breed)されたり訓練(train)されることはなかった。
寄生した猫(Felis s. lybica)は3600年前、農業の広がりと共にエジプトへ伝わり、そこで本格的な猫の育種が始まり、ペット用の品種が創られた。猫愛好(崇拝?)が嵩じて、2900年前には猫はエジプトの女神(猫)になった。その猫崇拝の名残りは、現代の女性の目の周りのお化粧に残っている。
世界中で飼われている猫の数は6億をこえる(10人に一匹!)。ヒトにとって役にも立たない動物がそんなに多数どうしてヒトと共存しているのか?心理学者によれば、ヒトが猫、特に子猫に魅かれるのは、その顔だという。大きな無邪気な目、可愛い鼻、広いひたいは赤ん坊の顔に似ており、女性の母性本能を刺激するらしい。
猫は自分本位の動物だからヒトの思うようにならず、ヒトの方が振り回される。谷崎潤一郎の「猫と庄造と二人のおんな(左:出版当初は旧カナで『をんな』だった)」に見られるメス猫リリーと、それに関わる人間達「ダメ男の庄造、庄造の妻福子、先妻の品子」の関係がその例だ。リリーを溺愛する庄造に福子が嫉妬する。品子がリリーを欲しがっているのが幸いだと、福子は庄造にリリーを手放すよう要求する。品子はリリーをもらい受けるが、なつかず面倒を見るのに大困り。結局三人ともリリーに生活を振り回される。
余談だが、谷崎はこの小説を書く少し前に妻と別れて再婚しているのでこの小説には実体験が入っていることだろう。
あるヒトが言うには、「忠実な家来がほしい人には犬を、わがままお姫様に奉仕したいヒトには猫がよい」。さて、あなたがペットを飼うとしたら犬にしますか、猫にしますか?
2 件のコメント:
犬は人の最善の友
ネコは?
BOTHです!
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