

ダン・シルヴァスタイン(Donald Silverstein)の絵画は、奔放でありながら繊細で微妙な情感を湛えている。ダンが描く線や点は自在に走り、八方に飛び散り、それでいてその線や点々が確実にキャンヴァスの上に、決定的な瞬間で凝固されている。凝固されながら、今にでも炸裂するかのようなエネルギーを秘めている。(上の作品:Untitled #28; 1981)









ギャラリー・サキコは、当初一般に公開していたが、最近では遺された作品をコンドミニアムの一室にまとめ、下記の電話またはメールで予約をとって観覧することができる。百聞は一見に如かず、誰にも邪魔されず、ひっそりと個人的に鑑賞することによって、ダンの芸術の真価を探究し、堪能なさることをお勧めする。

- 所在地:155 West 68th Street, Suite 1127, New York City 10023
- 電話とメール:212-496-3263/sakiko@gallerysakiko-ny.com
- ウエブサイト:http://gallerysakiko.com
2:童画、漫画家のダン
ダン・シルヴァスタイン(Donald Silverstein)が、絵画に専念する以前は、可成り売れっ子のイラストレーターだった。童話本を始めとし、コマーシャルから週刊TVガイドのイラストなど、広範囲の分野にわたって仕事をしていた。


しかし、確立された組織的な社会でつつましく人生を送るには、ダン自身の自我と止むに止まれぬ自由を憧憬する性格が許さず、気ままな自己表現に徹する方向を選んだ。(右は、清掃用のブラシでキャンヴァスを塗りたくるダン)
余談になるが、数十年前、多摩美大の伊東寿太郎(いとう じゅたろう)教授がニューヨークを訪れ、ダンと彼のグリニッジ・ヴィレッジのアトリエで対談したことがある。その対談の中で、教授が「貴方の崇拝する画家は?」と尋ねた時、ダンはためらうことなく「誰もいない」と答えた。これがダン・シルヴァスタインの『唯我独尊』ともいうべき自信であり、躍如とした面目であった。
3:素顔のダン

後に家族の移動に伴ってデトロイトへ移り、長じて美術を学んだ後、同地のアート・スタジオで美術部助手として働きながら更に磨きをかけた。その頃、同僚とデトロイトの一流レストランへ出かけたが『正装』を要求され、ネクタイをしていなかったダンは一旦表へ出て、落ちていた荒縄を拾い、首に巻いて入店を許された、という逸話がある。
ロンドン時代には、スポーツカーを乗り回して、イギリスの青年男女を煙に巻いていたようだ。(左は、シルクハットを被り、ファッション・モデルと。)
60年代、ニューヨークのアトリエに最高級の音響装置を備え、ネオ・クラシックやジャズの音楽を聴きながら制作し、同世代の友人たちからの羨望を一身に集めていた。レコード・ジャケットのイラストにも味わいのある作品を数々遺している。

サキコ夫人に求婚した一件は、ダンが冒したあるプラクティカル・ジョークの延長線上にあったのだが、正に二人にとって運命的な出逢いだったと言える。(右は1980年代に在日中のダン。シャツには『外人』とある。)
その他に、ダンのプラクティカル・ジョークで騙された被害者の話が何件かあるが、いずれ機会があったらご紹介する。だが『被害者』達がダンに腹を立てたり恨んだ、という話は全く聞いていない。
---- 高橋 経 -----