2009年1月6日
ある晩、暗い道を盲人が提灯を下げて歩いていた。それを見た通行人が訝しく(いぶかしく)思い「もしもしお盲さん、提灯はお前さんの役には立つまいに。」と声をかけた。盲人は笑って「へい、おっしゃる通りで、私に提灯なんぞ要らないけど、これがないと目明きさんが私にぶつかるんでね。」
盲人は確かに目明きが想像できない不自由さを味わい障害者の分類に入れられているが、その障害を克服して人並み以上の業績を挙げた人々がいる。古くは、盲(もう)、聾(ろう)、唖(あ)の3重苦を克服したヘレン・ケラー(Helen Keller)、琴の巨匠、宮城道雄(みやぎ みちお)、歌手のスティビー・ワンダー(Stevie Wonder)、レイ・チャールス(Ray Charles)、ニューヨーク州知事ディビッド・パターソン(David A. Paterson)など枚挙に暇がない。そしてその成功の陰には、点字(てんじ)の発明を見逃すわけにいかない。
1月4日付け、朝日の『天声人語』、毎日の『余録』が同時に盲人と点字の発明について書いていたのは偶然ではない。4日は、点字を発明したフランス人、ルイ・ブライユ(Louis Braille 英語ではブレイルと発音)生誕200年目に当たっていたからだ。
そして今日1月6日は、ブライユが1852年に逝ってから157年目の命日に当たる。僅か43年の生涯に、彼は盲人に光明を与える『点字』という大発明を遺していったのである。
盲人達は、目が見えない代わりに、その別に何か鋭敏で特殊な感覚を備えているに違いない。『天声人語』子は、『視界良好(しかいりょうこう)』を著した盲人、河野泰弘(こうの やすひろ、28)について「(河野が夜中に)一人静寂の中に立った。満天の星であろう頭上から、何とも言えぬ温かい気配を感じたそうだ。視覚以外が磨かれるのだろう。指先から知識を吸収し、鋭敏な枝を張る大樹を思い浮かべる。鍋の卵が踊る音からゆで加減を計り、風の中に雨の兆しを嗅(か)ぐ、、、」と叙述している。
また『余録』子は、「少ない材料で豊かに表現できる点字にはマイナスをプラスにする創造力、発想力があるという。(琴の)宮城(道雄)は随筆で、見えないことでの失敗を苦しみとせず、明るく笑っていられる、とある。それを読んだら、木漏れ日を浴びるようないい気分になった。[春の海]が作曲されたのも80年前の世界大恐慌の年。仕事始めを前に、不況で視界ゼロのような年明けだが、どこにでも希望の光はあるのだと教えられた。」と結んでいる。
ルイ・ブライユの生涯
ルイ・ブライユは、パリから60km東にある、人口2,700人ほどの小村に生まれた。父親は馬具や革靴などを製作する職人で、ルイが 3歳の時、その工房で遊んでいた折、父親が使っていた錐(きり)で誤って眼球を突き破って失明した。長じてパリの盲学校に就学、在学中、フランス軍の軍人シャルル・バルビエ(Charles Barbier)が生徒に教えた12点式の暗号法にヒントを得て6点式に改良、アルファベットの点字を開発した。パリの盲学校を卒業した後、同校で教鞭をとった。その後、更に楽譜や数式の書き方まで定め、これが世界中で使われる点字の源点となった。 ブライユは1852年、肺結核のため43歳で没した。彼の業績を讃えて、クプヴレ村の生家は通りをルイ・ブライユ通りと名付けられ、点字博物館として公開され、ブライユの遺徳を偲ぶ世界中の視覚障害者たちが訪れてくる。
今日、点字を表す言葉は多くの国で、彼の名前から『ブライユ』(英語読みはブレイル)と呼ばれるようになった。
小惑星ブライユは彼の業績にちなんで命名された。
点字とは、視覚障害者が触覚で読む字で、浮き掘りの点の位置によって文字・数字を表現する。(右の平仮名五十音図を参照) 最近では、ユニバーサル・デザインの一環としてパッケージなどに点字が併記がされるようになり、例えば、缶ビールなどのアルコール飲料に「びーる」(左の写真)といった表記が点字で付いている。
最近では、トイレなどにも点字が表示されるようになった。 パーソナル・コンピューターの周辺機器としては、点字プリンターや点字ディスプレイといった機器が開発され、点字を印刷することができる。 日本の著作権法第37条によると、著作物を点字により複製しても構わない、と定めている。
ところで、『点字』に対して、目明きが使う文字を『墨字(すみじ)』と呼ぶそうだ。鉛筆やボール・ポイント・ペンで書いた文字にも『墨字』という言葉が当てはまるかどうかは未だ確認していない。
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1 件のコメント:
素晴らしい話しですね。感激しました。
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