こと寄付となると、大人たち(筆者も含め)は『家庭の事情』による打算が優先して実行をためらう傾向がある。その点、子供たちは純粋に率直に困っている人々を救おうと行動に移す。もちろん全ての子供がそうだとは限らないが、ここに掲げた少女の話はほんの一例であって、多くの少年少女が自分たちの能力の限りを尽くして『恵まれない人々』を救うべく、貯めた小銭の貯金箱を洗いざらい寄付してしまうような事実がしばしば報道されている。そうした美談には頭が下がる。時に、大人は子供を見習わなくてはならないことがあるようだ。編集:高橋 経
レイチェル、最期の募金活動
ニコラス・クリストフ(Nicholas D. Kristof)
2011年8月10日付け、NYタイムズ紙から抜粋
「近頃のガキは、ネットにどっぷり浸かって、新しい友達探しに熱中し、、、」といったような批判をしばしば耳にする。だが、そんな一面だけを強調することは今日の少年少女に対して誤った認識を抱くおそれがあるようだ。
事実は、あらゆる面でその正反対なのである。今日我々の社会生活は、政治や経済、あらゆる面でマヒ状態にある。我々『成人』はあらゆる面で失望することが多く、目先のことに汲々として、重大な問題を解決できないでいるのが現実である。
そんな大人達の生活闘争にまだ汚されていない幼い世代は純真な率直さを失っていない。そうした少年少女たちは、より良い世界を築けると真剣に信じている。
レィチェル・ベックウイズ:2002年6月12日〜2011年7月23日 |
不況で沈滞していたこの夏、私が少女レィチェル・ベックイズ(Rachel Beckwith)の話を知った時、失いかけていた私の人類愛への信条が復活した。去る7月23日、僅か9才でこの世を去ったレィチェルは、大人の私に成熟した無欲な心を教えてくれたのである。
レィチェルはシアトル市の郊外に住んでいた。5才になった時、この少女は学校で『ロックス・オブ・ラブ(愛の石:Locks of Love)』という団体の存在を知った。その団体は、ガンなどの重病でラジューム線治療を受け、頭髪を失った子供たちにカツラを提供するという慈善事業をしていた。レィチェルは、ためらうことなく、彼女の長い美しい髪の毛を切ってロックス・オブ・ラブに送ったのである。
レィチェルの母親サマンサ(Samantha)は「あの子はガンの子供たちを助けたかったのです」と私に話した。髪の毛を切った後レィチェルは、また髪を伸ばしてロックス・オブ・ラブに寄付し続けるのだと宣言し、数年間、忠実に実行していた。
呑める水が不足しているケニアから |
レィチェルが8才の時、家族が属している教会で、水が乏しいアフリカに井戸を建設するという『チャリティ:ウォーター(Charity:Water)』という慈善団体への寄付金を集めていた。世の中に清潔な呑み水がなくて困っている人々がいることを知って仰天したレィチェルは、予定していた9才の誕生日パーティを取り止め、その代わりに友達から9ドルづつ集めてアフリカの井戸建設に寄付することにした。
レィチェル、9才の誕生日は6月12日、『チャリティ:ウォーター』のウエブ・サイトに登録し、目標300ドルとした。残念ながら目標は達成できず総額220ドルに止まった。
(上の写真はレィチェルの事故とは無関係) |
7月20日、9才になったレィチェルは家族と車で高速道路を走っていた。その途上、2台のトラックが衝突事故を起こし、これが原因でレィチェル一家の車を含む13台が巻き添えとなった。不運というか、家族の中でレィチェルだけが重傷を負った。
事故後の処置として、教会のメンバーや友人たちが一体となって相談し『チャリティ・ウォーター』のサイトに設定していたレィチェルの目標300ドルを継続して達成させることにした。目標はたちどころに達成したばかりでなく、その後も寄付が続々と寄せられ、レィチェルの病床の脇に積み上げられていった。見舞いの家族や友人たちがその朗報を伝えたが、意識不明のレィチェルは多分聞こえず、何も知らないままだったようだ。
ジャスティン・ビーバー |
その寄付の中には人気絶頂のポップ歌手、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)が彼の17才の誕生日を記念し集めて送ってきた4万7千544ドルが含まれていたことすら無意識だったに違いない。母親のサマンサは「レィチェルがその事を知ったら飛び上がって感激したことでしょう。でもあの子はジャスティンのファンだなんて一言も洩らしていなかったんですよ」と涙ぐんでいた。
やがてレィチェルの回復は絶望と判断され、点滴パイプが外された。少女の両親はその長髪を切り、『ロックス・オブ・ラブ』に彼女最期の寄付として贈り、内蔵器官は必要としている未知の子供たちに贈られた。このことは口から口へと人々に伝えられ広まっていった。
寄付は続々と贈られてきた。しばしば、レィチェルの年令に因んだ、『9』の倍数が多かった。中には5才の子供が貯金箱を空っぽにして贈ってくれた2ドル27セントなど、涙ぐましい小額も含まれていた。寄付金の総額はやがて10万ドルを突破し、30万ドルに達した。
私も動かされ、なにがしか寄付させて頂いた。今この記事を書いている時点では、世界中から寄付が寄せられ、85万ドルになったと聞く。その中には、アフリカからの寄付もあったとのことだ。彼らは「アメリカの一少女が、他の大陸に住む我々のことを心配してくれた」ことに感動したから、とのことだ。
レィチェルの母親、サマンサは娘の一周忌を記念してアフリカへ行き、『チャリティ:ウォーター』の井戸掘り事業がどのように実現されているか自分の目で確かめたい、と計画している。「たった9才で死んだ私の娘レィチェルが、世界中の人々の心に触れ、そしてその人達を動かして『レィチェルの井戸』を実現させたことを見るなんて、考えただけでも胸がいっぱいになります」と声をつまらせていた。
レィチェルよ、安らかに眠り給え。我々の世代は君から教えられたよ。
1 件のコメント:
子供の純粋さには、無条件で頭が下がります。
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