2012年12月13日木曜日

追悼:ラヴィ・シャンカァ

ラヴィ・シャンカァ(Ravi Shankar: 92)
1920年4月7日~2012年12月11日

ジョージ・ハリソンとラヴィ・シャンカァ、1970年頃
インド人のラヴィ・シャンカァはしばしばパンデット(Pandit: 賢者)という敬称で呼ばれていた。シタァ(sitar)という長大な弦楽器を使い作曲し演奏し、伝統的な曲も含め、インド音楽を欧米に広め人気を博した。ビートルズ(the Beatles) が敬愛し、特に故ジョージ・ハリソン(George Harrison)がその楽器に魅了され、教えを乞い習得した逸話は広く知られている。

シャンカァは若い頃、兄のウディ・シャンカァ(Usaipur Shankar: 1900~1977)が率いる舞踊グループについてヨーロッパ演奏旅行に同行した。18才になって踊りを止め、シタァの指導を受け、その演奏法を習得した。1944年、24才になったシャンカァは作曲を始め、1956年までオール・インディア・ラジオ(All India Radio)を通じて発表した。

以後、活動的に欧米で演奏活動を続け、ヴァイオリニスト、メニュイン(Yehudi Menuhin)ビートルズ等と親交をもち交流するようになった。また欧米の音楽をシタァ向けに編曲し交響楽団と共演し、1970年代から1980年代にかけて国際的な存在となった。

本国のインドでは、1986年から1992年までインド上院議会の候補メンバーとして奉仕、1999年には市民では最高のバァラ・ラトナ賞(Bharat Ratna)を授賞した。

2000年代になっても引き続き演奏活動を続けていたシャンカァの死後は、共演していた娘のアノウシュカ(Anoushka) が、父親ラヴィの跡を継ぐことになる。

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“Ravi Shankar I Am Missing You” 『ラヴィ・シャンカァ、貴方を偲んで』3:58分をご観賞ください。

2012年12月11日火曜日

軍国日本の復活?!


今を去ること67年前の1945年(昭和20年)、米英その他連合軍と戦っていた日本は惨敗を喫し、国土の大半は焼失して廃墟と化し、3百万人の生命が犠牲となり、北は樺太を含む島々を、南は沖縄以南の領土を失った。ダグラス・マッカーサー元帥を総司令官とする占領軍が日本の政治を司り、日本軍は全て武装を解除し、天皇は神格を放棄して人間宣言をし、新しい憲法が発布された。

沿岸警備船の訓練に派遣されたアフリカやアジアの代表
その新憲法の骨子は、「日本は武力を放棄して『永遠に』平和国家となり、一切の戦争に介入しない」ということであった。しかし、この憲法は『ザル法』だったようだ。敗戦の悪夢が覚めやらぬ内に、非常事態が生じた際の国防、という名目で『自衛隊』が誕生した。経済の復興に伴い自衛隊の軍備は増大し、曽ての大日本帝国陸海空軍の武力を遥かに凌ぐ戦力を備えてしまった。近代的武力で欠けているものといえば、『長距離弾道ミサイル』と『核潜水艦』である。
船内を見学し勉強する代表たち
だが北朝鮮からの脅威であるミサイルを、未然に空中で爆破してしまう『対空ミサイル』装置は確保している。
それでも自衛隊は、日本独特の天変地異が発生する度に出動し、被災者の救助に当たったため、国民は彼らの『武力』はともかく、『援助活動』には敬意を表し、感謝している。
かくして日本は敗戦以来67年間、世界のどこかで常に起きていた紛争をよそに、憲法を守り『平和国家』を享受し続けてきた。正に、古くはなったが新憲法サマサマである。ところが世界の情勢は、憲法をタテに他国の紛争に無関係でいられなくなった。それは多分、米英をはじめとする『大国』が、紛争に苦しむ『自由国家』を保護するために膨大な予算を費やし、軍隊を送っているのに、『経済大国』である日本が知らん顔をしているのは不都合である、という非難が出てきたため、敗戦以来、今年初めて自衛隊の海外派遣の予算が計上され、東南アジアその他の国々を援助し始めた。
東京湾でパトロールの実習中


こうした動向は敗戦で誓った『永遠の平和国家』の理想とは反するものであるが、中国の圧力に屈しないため、という理由もうなずけないことはない。殊に、東シナ海の無人島同然の尖閣島の所有権問題となると、『保護者』である筈のアメリカが後押ししてくれない限り、日本は自力で所有権を護らねばならなくなる。これが野田首相の言い分であり、『自衛隊』『国防隊』に格上げするだけで、『攻撃』でなくあくまでも『防御』が目的なのだというのである。
同時に『災害援助』から一歩進めて、他国の国防を援助する計画も進められている。その計画の内には、領海の拡張に積極的な中国の圧力から護るための水上飛行機とか、浅い沿岸を警備するに適したディーゼル発動機潜水艦を提供(有料で)することが含まれている。

これに対して国民の反応は半信半疑といったところだ。敗戦から67年経った今日、戦中戦後を体験した世代は2割前後で、以後この割合は減るいことはあっても増えることはない。とは言うものの、『軍国日本』の復活を戦争体験者が反対し、無戦派が賛成しているとは限らない。例えば、石原慎太郎は敗戦当時12才で敗戦の悪夢を体験しているはずだが、尖閣島問題に関する限り好戦的な姿勢を示している。
北京での反日デモ
中国での激しい『反日デモ』も日本を挑発するに充分な要素だ。
領土問題は尖閣島の他に、竹島問題あり、永年停滞し続けている北方領土、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)島など、日本にとっては頭痛の種が山積みしている。
もともと土地も海も、誰のものでもなかったのだから、誰も『所有』することなく、自由に上がって釣りなど楽しむことはできないものだろうか。いずれにせよ、武力で解決することを避けて、外交で妥協してもらいたいものだ。 編集:高橋 経 (写真、地図はニューヨーク・タイムズから。コー・ササキ撮影)

2012年12月6日木曜日

追悼:ディヴ・ブルーベック

第38回グラミー賞受賞式で演奏:1999年 

 ディヴ・ブルーベック

Dave Brubeck
1920年12月6日~2012年12月5日

売り出し当時のブルーベック:1950年代
生まれはサンフランシスコ湾岸地区。1960年代からジャズ・ピアニストとしては最も進歩的な作曲家として、92才の誕生日(12月6日)を目前にして亡くなるまで活躍を続けた。クラシックの素養を身につけていたが、飽き足らずジャズに熱中し、創作的なジャズの新風を巻き起こした。ブルーベックを一躍モダンなクール・ジャズのトップに不動の地位を築いた出世作はテイク・ファイヴ(Take Five)』。YouTubeでは、他の著名な音楽家たちも『テイク・ファイヴ』を演奏しているし、また2010年にブルーベック自身が再演している。だが、1966年に公演した『テイク・ファイヴ』のビデオがモノクロながら当時を偲ぶに最も適切だと判断したのでお贈りする。5分22秒、当時の観客と共に堪能し、稀代のジャズ作曲家の冥福を祈っていただきたい。 編集: 高橋 経


Paul Desmond−サックス, Joe Morello−ドラムス、 Brubeckの後ろは Gene Wright−ベース

2012年12月3日月曜日

ナイアガラの滝、101年前のできごと



ジェームス・ソマーズ(James Sommers)が、母親から聞いた話。


観光客で賑わうナイアガラの滝 

「あの頃,私の従姉のソフィア(Sophia)がナイアガラの滝の傍に住んでいてね、、、。ある朝、目が覚めた時、いつもと違う『何か』を感じてね。それが何なのか、直ぐには判らなかったんだけど、やっと、いつも聞こえる筈の『音』が聞こえないことに気が付いたの。その『音』とは、ナイアガラを流れる水が滝に落ちる時のすさまじい轟音を、ソフィアは絶え間なく聞いていたのです。
「奇妙に思って表へ出ました。もちろん冬の真っ最中、オーバーを着て、手袋をはめ、耳まで覆う帽子を被り、ブーツをはきました。裏庭を出ただけで目の下に見えるナイアガラの川と滝を見た時、ビックリして開いた口がふがりませんでした。川も滝もすっかり凍って動いていなかったからです。」

1911年、冬のできごとだった。





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発行編集責任者: 高橋 経

2012年11月28日水曜日

いつか溺れる自由の女神


この世の終りか、水浸し

水中に没するであろう『自由の女神』。空想科学小説ではない。Owen Freeman画く


最近、アメリカ東部沿岸を襲ったハリケーン、『サンディ』(Harricane Sandy)は、天文学的な数字に上る被害を残して去った。その被害の修復と復興には、莫大な費用と才月がかかるであろう。その詳細はマスコミの報道に任せるとし、ここでは、地球的な水害に焦点を当ててみる。

地球の温暖化が叫ばれて久しいが、改善はおろか、その現象を否定する人々,あるいは否定した方が都合が良い人々が多く、事情は悪化する一方である。今回、『サンディ』の被害で水害が目立ったが、これは温暖化で北極、南極の氷がどんどん溶けて流れ出した因果関係であり、それを否定することはできない。

ニューヨーク・タイムズ紙(11月24日付け)に、ジェイムス・アトラス(James Atlas)が評論を寄せ、その冒頭で:「この類いの水害はサンディが初めてではなかった。ヴェニスのピアザ・サン・マルコ(the Piazza San Marco)が水没したこと;暴風雨『カトリナ』でニュー・オーリーンズが水浸しになったこと;2004年の津波でインドネシアの沿岸が波に洗い流されてしまったこと、昨年3月、日本の東北では地震に続く津波で原発まで破壊され放射能が垂れ流しになったこと、などなどいずれも我々の記憶に新しい。昨年のハリケーン『アイリーン(Irene)』は北上しながらアメリカ東沿岸を襲って大損害を与えたが、ニューヨークは最悪の災害から免れた。T. S.エリオット(T. S. Eliot)は著書『廃墟(The Waste Land)』の中で、[水死の恐怖(Fear death by water)]を語っている。我々は今、その現実に直面しているのだ」と書いている。

一体、この先どうなるのであろうか?誰もが心配し、一部の科学者はその予測を算出した。ニューヨーク・タイムズ紙で発表されたその報告の一部をご覧いただきたい。

次の地図は、ニューヨーク市、ロサンゼルスとその近郊、サン・ディエゴとその近郊だけ選んでみた。それぞれ「現在の水位」を0メートルとし、「次の数世紀」には、水位が7.62メートル上昇する、という前提による比較である。薄い水色部分が浸食されて水没する。
左はロング・アイランド:右はマンハッタンとブルックリン地区の拡大
ロサンゼルスとその南、北、東の郊外
サン・ディエゴとその近郊
「100年も先のことだったら、自分には関わりない」などと考えめさるな。100年先に突然7.62メートル水嵩が増えるのではない。年々絶え間なく水位が上昇するのである。言いかえれば、沿岸が次第に浸食され、住居も何もかも水中下に沈んでいくのである。
これを防ぐには、地球の温暖化を食い止めるしかないのである。編集:高橋 経

2012年11月20日火曜日

宴(うたげ)のあと


志知 均 (しち ひとし)
2012年11月

都知事選を背景にした小説「宴のあと」の終わりのところで、三島由紀夫は、政治の泥沼の中では汚濁も偽善も人間性も、遠心分離の脱水機の中に放りこまれた洗濯物のように、早い回転で見えなくなってしまう、というようなことを書いている。
選挙戦中、民主党側から出された広報ポスター

投票日直前に二ユーヨークその他の東海岸を襲ったハリケーン、サンディ(Sandy)の被害まで加わった今回の大統領選挙の印象は同じようなものであった。オバマ(Barack Obama)ロムニー(Mitt Romney)も共に数億ドルの選挙資金を消費した長い選挙戦がデッド・ヒートになった10月後半以降は、相手の誹謗と揚げ足取りをテレビのスポット広告で繰り返す泥仕合になった。オバマの勝利で終わった選挙戦の成り行きを最後までつきあってうんざりしたのは私だけではないであろう。

今回の選挙は16兆ドルを超える財政赤字をどうするか、景気回復を促進し失業率を下げるにはどうすればよいか、など経済の問題が焦点であった。2008年に初当選したオバマ大統領は政府資金でまず金融機関と自動車産業を救済した。そのあと国民健康保険制度の改正に着手したが、それの立法化に月日をかけ過ぎたため景気回復が遅れ、失業率は上昇し、政府の財政赤字は大幅に増えた。その結果、経済問題を処理するオバマの能力に不満をもった国民は、2010年の中間選挙で共和党議員を多数下院へ選出した。その後も大統領選挙の投票日までGNP(Gross National Product: 国民総生産)は増えず、失業率もほとんど改善されなかった。したがって、ビジネスマンとして実績のあるロムニーの経済再建案に賛同するのは共和党支持者だけでなく、無党派のひとたちにも多かった。にもかかわらずオバマが再選された。何故か? 簡単に答えられる問題ではないが以下私の感ずるところを書いてみる。


ミット・ロムニー候補
今回の選挙結果は、現在のアメリカ社会が抱える問題の根が財政赤字額や失業率などの数字でみるものよりもっと深いところにあることを示している。オバマ再選が決定的になった時テレビに映ったオバマのまわりには白人よりも黒人やヒスパニック(Hispanic: メキシコ系、キューバ系など)の顔が多かった。他方、負けたロムニーを取り囲むのはがっくりした顔の白人男性が多かった。黒人、ヒスパニック、アジア人は少数派(minority)と呼ばれるが、その総数は多数派(majority)の白人人口をしのぐほど増えている。この少数派への働きかけに、オバマがロムニーより勝っていたのが勝利の一因であったことは明らかである。

黒人、ヒスパニックの少数派は社会の下層クラスに多く、政府の援助(食料品を無料で買えるfood stampや無料医療保険Medicaidなど)を受けている者が多い。保守的な白人男性は、この連中を社会の重荷だとみなしている。選挙戦の演説でロムニーが、「税金を払わないで政府援助で生活している47%の人たちはオバマに投票するであろうから、その人たちの支持は期待していない」という趣旨のことを言ってマスコミにたたかれた。確かに大統領候補者としては失言だが、現在のアメリカ社会の問題の本質に迫る発言で、たとえ人種差別の議論になろうとも、もっと掘り下げるべき問題だったと思う。

現在、全人口の16%が貧困と言われ、その階級を救済するのは急務である。また長引く不況で打撃を受けた中産階級への政府援助も必要である。しかしオバマ大統領の政策の方向は、富裕階級への増税、ビジネス、金融界への規制強化で、ヨーロッパ型の社会民主主義の拡大のようにとれる。それに対しロムニーは、連邦政府を縮小して、富と幸福を追求する個人の自由と権利に干渉しない------つまり伝統的な自由経済民主主義を強調する。オバマ的思考は民主党の進歩派に支持され、ロムニーの考えは共和党の保守派に支持される。進歩派と保守派の対立は新しいことではないが、今回の選挙はこの対立が際立ちアメリカが辿るこれからの方向を決める選挙だったといえる。共和党の地盤である南部(フロリダ、テキサスを含む)が、合衆国から独立したいという動きまであり、事情は違うが、南北戦争の確執がいまでも根強く残っていたのかと驚く。

オバマ大統領の当面の大きな課題は、Fiscal Cliff(財政上の絶壁)』をどうやって回避するかである。Fiscal Cliffというのは、2011年9月にオバマが政府支出を増やすための借入上限、つまり財政赤字の上限を上げるよう下院に要請した時、それを認める条件として、2012年の年末までに財政赤字を減らす法案を作ること、それができなかった場合には、2013年1月1日から強制的に政府支出を大幅にカットすることを決めたもので、軍事費、失業保険費などのカットと増税(90%の家庭の税金が平均3,700ドル増加)が施行される。もしそうなれば、2013年のGDP(Gross Domestic Product: 国内総生産)はマイナス1.3%に下がり、失業率は9.1%にはね上がると予想される。せっかく上向きの兆候がみえてきた景気も逆戻りするであろう。Fiscal Cliffを回避できたとしても、巨額(16兆ドル以上)な財政赤字の問題は続く。今回の選挙で大統領と上院は民主党、下院は共和党という構図は変っていない。民主党と共和党の対立は、オバマが大統領になってから激しくなり、ここ数年、政府予算は『前年比』を繰り返すばかりで立法化されていない。

誰の言葉だったか忘れたが、「Diplomacy is an art of compromise(外交は譲歩する技術である)」といわれる。大統領も議員たちも党の利益よりも国民の利益を優先し、お互いに譲歩して問題解決に取り組んでもらいたい。選挙前に誰かが車に貼り付けていた標語を思い出す。「Replace them all! (全員とりかえちまえ!)」。景気の回復が加速しなかったら、 国民は2年後の中間選挙でどんな裁断を下すだろうか?