2012年11月1日木曜日

紙製の本は消え去るか?



今は読書週間の真っ最中で、今日11月1日は今年から新たに制定された『古典の日』である。日本なら『源氏物語』を、欧米だったら差し当たりシェークスピアをしっかり読もう、という企みであるようだ。

そうした結構な企画と呼応しているわけでもなかろうが、近年、電子書籍(electronic book: eBook)を含む電子出版が徐々に、そして確実に普及し始めている。当然、古典文学も含まれている。

つい先日、TIME誌(タイム)と一、二を争っている週刊誌の大手、Newsweek誌(ニューズウイーク)が、印刷雑誌を廃止して、全面的に電子版に切り替える、と発表した。
この傾向がさらに続くと、永年親しんできた『紙製の本』は消滅してしまうのではないか、と危惧する声が聞かれる。それに答える予測は後回しにして、電子書籍の歴史を振り返ってみよう。

◆ グーテンベルグ計画:1971年
グーテンベルグ

グーテンベルグ(Gutenberg: 1398~Feb. 3, 1468 )というと、1440年頃、活字(組み替えられるタイプ印字という意味)を実用化し、それまで僧侶が手書きで写経してきた聖書(Holy Bible)の多量な複製を可能にした人物である。そのことで彼は印刷業界の恩人とあがめられてきた。ちなみに、グーテンベルグが活字応用を実現させた年から遡ること300年も前に、ある中国人が陶製の活字を開発ている。また1403年には、ある韓国人が、グーテンベルグ活字の原型とも言える金属鋳造の活字製法を発明している。


鉛の活字
にも拘らずグーテンベルグの名前の方が印刷の歴史で重要視されているのは、何千とある漢字の数に比べ、たった26文字の組み合わせで文章を構成できるローマ字の方が、複製を迅速かつ能率的に印刷できたからであろう。この違いは、後世のワープロでも東洋語の電子化を遅らせた原因にもなったようだ。


グーテンベルグの「聖書」
いずれにせよ、1971年、マイケル・ハート(Michael Hart)の発起で、古典文書の保存を目的とし、それを電子化して収録し始めたのがこのーテンベルグ計画(Project Gutenberg)であった。電子化された古文書の中には、アメリカの『独立宣言(The Declaration of Independence)』が含まれていた。
現在同プロジェクトから、4万冊に及ぶ古典の電子書籍が無料で提供されている。

◆ インターネットの普及:1990年代初頭

1990年代以前には、インターネットはごく一部の専門家だけのものであったし、ISP (Internet Service Provider: インターネットを繋げる仲介業者)はコンピュサーブ社(CompuServe)がほぼ独占し、加入料金も高価だった。後に電話会社その他が続々とISPとして加わり、加入料金が下がって手頃になるにつれ、一般が続々と加入し始めた。インターネットの身近かな利点は、月々の基本料金は別として無料で文書交信ができる電子メール(eMail)である。これが加入者を急速に増やす原動力になり、それに加えて、あらゆる『情報』を容易に即刻に検索できるという利点が爆発的な普及につながった。それに派生して簡便な『買い物サイト』、友人の輪を広げる『社交サイト』、不特定多数への『発言の場ブロッグ』、個人、企業を問わぬ『自己主張、宣伝のホームページ』などなど、その利点は枚挙にいとまがない。

アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)が書籍の通販を始めたのもこの頃であり、今ではインターネットでは最大の『売り手』に成長した。

◆ PDF (Portable Document Format)の登場:1993年

PDFは、ソフトでは業界最大のアドービ社(Adobe)が開発した『文書共有化』の形式である。それまでは、システムが違うコンピューターの間では文書の互換性がないという不都合な面があった。それを解決したのがPDFで、文書をPDFに変換すれば、受け取る相手のシステムが何であろうと文書、写真や映像を開くことができるようになった。これが、いわば『電子書籍』の基本的な構想となったのである。

◆ CD本の誕生:1990年代初期

CD (Compact Disc)は、既にLPレコードカセット・テープを駆逐し、音楽の媒体を占有していた。それまで『音』だけを収録していたCDが、文書や画像も収録できるようになった。これに従って、この以後に製造されたコンピューターにはCDドライブが内蔵されるようになり、CDの内容をスクリーン上で見ることができる。さらに音声も聞かれる『百科事典』や『雑誌』『カタログ』が発売され、また無料の宣伝材料にも応用されている。

◆ 電子書籍の静かな本格化:1999年


「開けゴマ!」ならぬ開けイーブック: Open eBook: は一般に知られないまま、古典文学や教科書の分野を開発し始めていた。まだ商業的な存在ではなかったが、、、。

◆ ソニー(Sony)とグーグル(Google Books) が電子書籍の商業化:2004年

ソニーのイーリーダー
先ずソニーがイーインク (eInk)と名付けた読書用の端末器を発売した。ほぼ同時に、グーグル(Google) が端末器ではなく、インターネットで電子書籍の販売を始めた。

◆ ソニー、二代目の端末器: イーリーダー(eReader):2006年

新しい二代目は、前記の eInk テクノロジーを活用し、今は亡きボーダー・ブックショップ (Border’s Bookshop)と提携し同社を通じて電子書籍の販売を始めた。

◆ アマゾンの挑戦:2007年

アマゾンのキンドル
紙製の書籍販売では独占的な販路を持っていたアマゾンが、キンドル(Kindle) と名付けた端末器で読めるeBook 販売を開始したのは、むしろ当然の成り行きだった。それまでに築き上げた広大な流通市場を利用し、アマゾンの電子書籍はたちまちトップの座に就いてしまった。

◆ スマートフォンの登場:2007年

アイフォーン
時を同じくしてアップル社 (Apple Co.) アイフォーン(iPhone)を発表した。このスマートフォンは基本的には携帯電話であるが、その多彩な機能は驚異的に豊富で、画面は鮮明、カメラやビデオまで組み込まれている。これが魅力で若者たちの間で爆発的に売れたことは周知の通りである。これはアマゾンの電子書籍と競合するどころか協調し、アマゾンから発売されている書籍をダウンロードして読める仕掛けになっている。これで、電子書籍の販路が大幅に拡大された。

◆ アップルの追い打ち、アイパッド(iPad)の登場:2010年

アイパッド・ミニ(手前)とアイパッド
スマートフォンは従来の携帯電話よりは大きいが、本を読むのにはもう少し大きければ読み易いのだが、といういう消費者の要望に応えたのがこの『タブレット(tablet)』型で、アイパッド(iPad)と呼ばれる形体の端末器である。これがスマートフォンと並行して、同様に爆発的に売れた。

消費者というものは勝手なもので、「大きければよい」と願った舌の根も乾かぬ内に「もう少し小さいと目立たなくて持ち運びに便利」なことを要求し、今年その小型アイパッド・ミニ(iPad Mini)が発表された。これは、もしかしたら消費者の要求に応えたというより、アップル社が販路を拡張するための消費者市場プラニングから生まれたのではないか、という観測もある。いずれにしても、『柳の下』にドジョウがいたようで、これも爆発的な人気を呼んでいる。

◆ 紙製の本は消え去るか?

いいことづくめの『電子書籍』の成長ぶりを観察してみると、紙製の本の将来は悲観的でしかないように思える。私は色々な理由で『電子書籍』を愛用し、友人にそれとなく推薦しているが、私の世代の老人ばかりでなく、若い世代の人々でも『電子』に抵抗を示し、『紙製の本』に執着している方がまだ大勢存在することは確かだ。

その理由は様々だが、一つには、『電子書籍』は端末器を介してのみ存在する、という不安定な面が否めない。一方『紙製の本』は『器具なし』でも手に取って直ぐ読めるという安心感がある。紙の「手触り」や「装丁」への執着も捨てられない魅力だ。

第二に、電子書籍』は貸し借りができないこと。『書籍』を収録している『器具』には個人的な情報が無数に入っているため、他人に貸与するわけにいかない。また収納された『書籍』を他器にコピーすることはできない。

というわけで『紙製の本』は次第に少なくなるであろうが、消滅することはない、というのが私見である。編集: 高橋 経

付記:毎年大赤字を計上している郵政省は、インターネットの普及による犠牲者(社)の最たるものではあるまいか。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

電子書籍の「いいことずくめ」は本当です。ここのコメント欄では書ききれないので、別の機会に発表します。