たぶち・ひろこ
2012年7月19日付け、NYタイムズの報告から
写真:ささき・こう撮影
福島県内のスーパーマーケットで、さいとう・かな |
すしレストランを始めた『かっぱ』では、カリフォルニア米を使い始め、日本最大の肉丼チェーン店『まつや』では、国産米とオーストラリア米の混合を試用し始めた。全国に安売り店を持つ『だいこくてん物産』では、米の在庫を確保するには外米に頼るしかない、と言っている。
不況で国民の収入が減少しつつあることと、国産米では重要な地位を占めてきた福島産の米に放射能が含まれてはいないかという心配も伴って、日本の消費者やレストランが、思いの外に高価な国産の特選米にこだわらず、また政府の輸入品に厳しい保護政策にも拘らず、安価な中国米、オーストラリア米、アメリカ米に切り替えている。この傾向は今の内は少数だが次第に増えつつあるようだ。
東京都内のウォルマートで買い物をしていたパートタイマーの会社員、さいとう・かな(29)は「以前は誰も外米を買うことなんて考えていなかったでしょう」と言う。彼女は2キロ袋の中国米を買うつもりだったが、すでに売り切れていた。そして、「『国産』という表示は、福島の原発事故以来、すっかり意味が変わってしまいました」とも言っている。
農相は、外国産米に778パーセントの関税をかけて完全に閉鎖していた米の輸入量を増加させる意図はなかった、と言う。1995年以来、政府は年間70万トンという関税なしの米を輸入してきた。こうした輸入米は、国産米と競合することなく飼料や緊急事態用に蓄積していただけだった。
日経新聞の3月に掲載された食品会社60社の調査によると、7割が輸入米を購入する意志があることを表明していた、とある。東京に本拠をもつウォルマートの代表、かなやま・りょうは、輸入米の確保に「全力を尽くし」ている、と語っている。
日本の消費者や業者から、輸入米増加の切実な要求があるなしに拘らず、その供給状況は不確実であり、日本の農家の政治的圧力も国産米を保護する方向にある。それは、日本の政治、社会、経済、愛国心、などが入り混った心情と密接な関係があるようだ。
神戸大学の農業科学部門の、かこ・としゆき名誉教授は、「もし日本が輸入米に門戸を開放したら、それは戦後日本の大きな変革であり、過去数年間で日本の消費者の傾向が変わったことを示すことになるでしょう」と観測している。
アメリカ合衆国の米作農家は、米の消費市場が政治と関連しているとは納得し難いものがあり、自由市場とはほど遠いものがある、と考えている。アメリカ米作連合(The U.S.A. Rice Federation)では、稀に東京で『味覚テスト』を施行し、ほとんどの消費者たちは国産米か輸入米かの区別はつけられない、と結論を出している。
アメリカ米作連合の営業部長、ロバート・カミングス(Robert Cummings)は、「我々は、アメリカ米の輸出先は需要の有無によって決定するのであって、政治的な配慮からではない」と断言する。
災害当時、福島地方の農家の関心は、輸入米に向けられてはいなかった。昨年、この地方の農民は特選米の植え付けに熱中していた。その米は国産で最高の種を15年がかりで交配した『天の粒』と呼ばれる新種であった。
農業関係の官吏たちは、この新種の各種が日本の伝統的な趣味に合う特選米になることを願っていた。
だが、昨年3月の大震災、津波、原発事故で福島の農地7千300ヘクタールが汚染して作付け不能になってしまった。収穫した稲は放射能で汚染し、特選米の夢は水泡に帰したかに思われた。
農夫、くちき・かつゆき |
農夫の一人、くちき・かつゆきは、「この米は最高の品種ですが、とても心配です」と憂い顔だ。その米は米作では9代目の彼が一家総出で、福島第一原発から64キロの位地にある田に植えたものだった。収穫した米をテストした結果、セシュウムの反応が無事だったので売ることができた。しかし、価格は彼の胸算用よりはるかに下回っていた。
今年は、その地方の農家はセシュウムを吸収する薬剤を散布し『天の粒』の収穫を大幅に上げようと意気込んでいた。地方の行政官庁は30億円投資して放射能検査機を備え、収穫した米を検査することにした。くちきは、「我々は最善の努力をして安全な米を出荷できるようにします」と語る。
こうした努力にも拘らず、多くの消費者が(福島産の米から)離れていった。政府が応援して国産米の安全を説いても、災害地で生産された米に不安を感じる声が広まってしまったのは如何ともしようがなかった。
もっと大きな問題は、日本の経済不振にある。その影響で、過去10年間に国民の収入が減少し、消費者が高価な商品の購入を避けるようになった。昨年、国立の農業協会に関連のある日本共済一般調査協会(the Japan-Cooperative General Research Institut)の報告によると、低品種の国産米の販売が上昇した一方、高級ブランド品の販売が低迷している、という結果が現れた。
経済専門家は、若者や高級品志向でない消費者たちは、主に低価格の代行品を探す傾向にあると見ている。この傾向は、特に若者たちの間での米の選択に現れている。伝統的な『魚と米』といった献立より、『パン食(マカロニやピザも含めて)』に移行し、最近では米食の量は、1960年代の消費量の半分になってしまった。
調査協会のふじもと・やすひろ会長は、「景気の後退で、収入が減ったので日本人は米質の良し悪しを言わなくなりました」と言う。
こうしたことを総合すると、国産米を作っている農家を助けるには、外米の何倍もする国産米を購入しなければならない、という負担が生じてくる。
つい最近まで、日本の消費者たちは10キロ袋の(ふっくらと、艶があり、小粒の)ジャポニカ米に喜んで5000円も投じていたのだ。(ほっそりと、乾いて、長粒の外米はその10分の1の値段だったのに。)
国産米の収穫が悪く、需要に間に合わなかったため消費者が緊急用に保持していた外米を求めざるを得なかった1993年でさえ、多くの消費者がそっぽを向いていたことがあった。
あれから20年近く後の今日、ウォルマート、ベイシア、まつや、かっぱ、が口を揃えて、彼らが扱っている外米に対しての不平不満は何も聞いていない、と言う。
「結局、消費者たちは気にしていないか、味の違いに気が付かないか、でしょう」とは、まつやの代表、たなか・てつじの分析である。
1 件のコメント:
育ち盛りの頃、私は3度ごとにゴハンを食べ、それに何杯もお代わりをしたものです。
今日、私は一日に一杯、当時の10分の1です。時代が変わったからでしょうか、年のせいでしょうか?お百姓さんに申し訳ない。
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